第4章 3 夢か現か幻か
開いた目蓋の先、天井からぶら下がる小振りだが華やかなシャンデリアを目にして、自分が客室で眠っていたのだということに気が付いた。
否、眠っていたというよりも眠らされていたという表現の方が今の私には正しいのだろう。
先程までの気の狂う魔力の波も、天地が反ったかのような感覚も、酷い吐き気も、何もかも落ち着いていた。
だが、口を開くとヒュー、と喉が鳴った。
冷たい空気が乾いた喉を撫でる。
ふと横を見ると、見慣れた後ろ姿を見付ける。長年連れ添ったその男の背中に、こんなにも何かを感じたことはあっただろうか。
私は、思わずその名を口にしていた。
「ジェイド……」
酷く掠れた、声というにはそれはあまりにも情けないものではあったが、それでも確かに届いたらしいその背中はすぐにも私の方を振り返った。
確かに視線が交わるのを確認すると同時に、何て顔をしてるんだ、と思ったが、自分のせいかと思い返しては何も言わずにいた。
「ハイデス様……お気付きになられましたか。魔力も存分と安定されました。」
「…彼女は、アンリは……大丈夫なのか。」
衝いて出た言葉はやはり彼女の事だった。
「ええ、今は静かに眠っておられます。」
「本当か?大丈夫なんだな……」
「勿論で御座います。常にメイドを側に付けておりますから、ご安心を。」
その言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。
「そうか。なぁ、ジェイド……私は、正しかったのか?他に選択肢が無かったとはいえ、言われるがままに、アンリを……」
今更後悔などしても遅いのだが、考えずにはいられない。
私の身体等あの時は最早どうでも良かったが、こうして正気でいられることに、酷く感謝している私がいるのも確かだ。
それは、このジェイドの心底安堵したかのような顔を見たからだろうか。
「ハイデス様、今は信じましょう。」
「そう、だな……。」
ゆっくりと起き上がると多少の目眩はするが、意識は保てる。吐き気も無い。何をどうしたら、あの状態からここまで回復出来るのかと思ったが、詳細はジェイドがルシスから聞いていたらしい。