第2章 1 箱庭
ぎゅっと膝を抱えていると、急に部屋の扉が開いた。
「えっ、……」
そこには、今この時会いたいと口にした彼がいて、こうしてはっきりとした意識の中で見たのは初めてだった。
部屋に差し込む淡い日差しが、その金色の髪を照らしてキラキラと輝いて肌は透き通るほどに白い。
思ったよりも背が高く、すらりと伸びた脚が細身の体を強調させるが私はその体の逞しさを知ってしまっている。
おとぎ話から出てきた王子様ですか?と聞きたくなるほどに完璧に整った顔が私を見つけるとふわっと優しいあの笑みを浮かべた。
もうそれだけで体温が上がった気がする。
彼はその優しい笑顔を浮かべたまま後ろ手に戸を閉めると何も言わずにこちらへ向かってくる。
22年生きて来てこんなにキラキラした人を間近で見たことがないからどうしても目を逸らしてしまいたくなるのだが、私は金縛りにでもあったかのように彼から視線を離せずにいた。
「……どうして、目を逸らそうとするの?」
私が座っているベッドへ手を付くと、ギシリと彼の体重でスプリングが鳴った。
そのまま顔を覗き込まれては緊張で声を発することも出来ない。
ドッドッ、と私の心臓が音を立てて鳴る。
この距離では聞こえてしまうかもしれない。
「ねぇ、君が呼んだんでしょ?だから来たんだよ。僕……ずっと待ってたんだ。君の目が覚めるのを。」
呼んだって、確かに会いたいと、そう口にしたけれどそこまで大きな声で言った覚えもないし思わず漏れてしまった独り言に彼は答えたってことなの?
それに待ってたって……
頭の中で色々な疑問が飛び交って、あたふたすることしか出来ない。
目の前にはやはりあの空色の瞳。
すごい、睫毛も金なんだ、とかそんなどうでもいいことを思うことは出来るのに肝心の声を発するという動作が出来ていない。
「目が覚めて、少し一人の時間があった方がいいかなって思ったから。君が僕を呼んでくれるのを待ってたんだよ?本当は眠っている君の顔をずっと眺めていたかったのだけれど。」
え、えっと、……??
ちょっと恥ずかしいことを言われた気がして処理が追い付かない。
こんな近くて、そんな笑顔で話し掛けられるだけで私の心臓は張り裂けそうなのに寝起きの頭はとにかく私の言う通りに動いてくれない。