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私を愛したモノなど

第4章 3 夢か現か幻か




空気が冷え、静まり返った部屋。

窓の外は相変わらずの強硬な魔方陣が空気に触れゆらゆらとその怪しげな光を見せている。その更に奥の、遠い遠い空の向こうから、薄明かるい日の光が夜明けを告げるために差し込み始めていた。

ガタン!と大きな音を立て、ふらつく身体を何とか引きずり、目の前の扉を開けて崩れるようにその中へ入った。
息はぜいぜいと荒く、座り込んでいるというのに世界が回り出す。

私はこのままでは不味いと、まともに歩けぬ脚を力任せに叩いて歩かせた。
彼女との、アンリとの行為の後、私はまともではいられなくなった。それは彼女のいる自室から出てたった数分の出来事。私の中に取り込まれた彼女の魔力が身体中を駆け巡ろうとしている。本来の私の中にある魔力が、膨大な量のそれを拒み押し返す。
それが、何度も私の感覚を狂わせ意識すらも奪おうとした。他人から魔力を受けたり、魔力魂により他の魔力を摂取すると誰しもある程度体調を狂わせるのだが、これはその比ではなかった。

駆け込んだ先で洗面器に顔を突っ込むと耐えきれず胃の中のものを吐き出した。
とはいえ、散々飲んだ薬くらいしか出るものもなく、胃液と混じったそれが更に喉を焼き付けるだけだった。

だが私はすぐに側に置かれた薬瓶を乱暴に掴むとまた一気にその中身を胃の中に流し込んでいく。
焼けた喉をヒリヒリと痛めつけた。

鏡に写った自分の姿があまりにも滑稽で、惨めだった。
不意に、その鏡の向こうの自分が笑う。
夢が叶い、彼女に触れることが出来て良かったではないかと嘲笑うかのように見えた。

「っ、……クソッ!!」

力任せに鏡を殴ると耳をつんざく、ガラスの割れる音と共に忌々しく笑う私は砕けていった。

幻覚すら見えてきたのか。

流れる血を気にすることもなく、その震える手を噛んでどうにか意識を保とうとした。

「、ハイデス様!」

駆け込んできたジェイドを意識する事など、もう不可能であった。
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