第4章 3 夢か現か幻か
「……折角ですので、行ってらっしゃいませ。すぐにご用意致しますよ。ハイデス様へは、私の方からお伝えしておきますので、ご心配なさらず。」
私の方を向き直り、にこっと笑ってジェイドさんは言った。
「え?お屋敷から出ちゃって、大丈夫なんですか?その、結界だとか…」
「アンリ嬢、私が常に側におりますので、そこはご安心ください。」
「えっと……ジェイドさんは……?」
「私は留守を頼まれておりますから、屋敷に残ります。」
何だか急に決まったこの予定は、どうやら断るという選択肢を私には用意されていないらしい。
嫌では無いのだが、どこか不自然さを感じつつも、ルシスさんなら大丈夫だろうと素直にお邪魔させて貰うことにした。そうしてすぐにメイドさん達が仕度をしてくれて、そのまま屋敷を出たのだった。
トントン拍子で進んでしまい、その後のちゃんとした予定も聞かぬままルシスさんに手を引かれ馬車に乗り込むと、慣れ親しんだ屋敷が遠くなるのを見た。
最初、ジェイドさんの表情が少し気になったけど、大丈夫かな。
ルシスさんは相変わらずにこやかに、道行く景色を見ながら私の知らない話をしてくれていた。馬車に揺られながら、色付く木々と、風に吹かれていく枯れ葉を目で追っていた。
意識のどこかで、ずっとハイデスさんの事を思いながら。