第4章 3 夢か現か幻か
あれ程までに、ハイデスさんの状態が悪くなるまで、私は一切気が付きもしなかった。寧ろ、自分自身の感覚すら曖昧で、ずっと私を助けようとしてくれるその人の事を、何も見えていなかったのだと。
「……少し、緊張が解れての事でしょう。お嬢様が眠っている間も、ずっと側について居られましたから。心配されていたのですよ。」
そう、だったのか。
嬉しいよりも……申し訳ない気持ちが溢れてしまう。
自分がどういう状況だったのかよく分からないのも相まって、ハイデスさんへの罪悪感というか、心苦しさが強くなる。
何でいつも自分の事すらもわからなくなってしまうのだろう。
「大丈夫ですよ、お嬢様。ハイデス様はお強い方です。」
ぐるぐる考えていると、ジェイドさんが笑って言ってくれる。
でも、私にはその瞳が、どこか不安そうに思えた。
「、…でも、あの時のハイデスさんは、あんなに……私の中には、優しい記憶しか無いのに…、何でって…っ、」
そう、だって、私の中にあるのは、狂おしい程に私に触れるあの姿だったから。
私は先程見たハイデスさんと、自分の中にある記憶との温度差に今更ながら困惑している事にこの時気が付いた。
そっと私の手にあるカップを受け取り、机に避けるとそのまま大きな手が、私の手を包んだ。清潔な、滑らかな手袋越しに感じる、その力強さに、逆にグッと堪えていた気持ちが溢れてしまう。
「っ、ジェイド、さん……私、やっぱり、迷惑しか掛けてない…ここに、いるべきじゃ…、」
「なりません。アンリ様、その言葉はいけません。ハイデス様も……勿論このジェイドも、一度としてその様な事を思ったことはありません。アンリお嬢様、全ては私共が貴女のお側に居りたいと、そう願った故の事で御座います。ですからどうか、どうか、その様なことは仰らないで下さいませ。」