第4章 3 夢か現か幻か
初めてだった。ハイデスさんと、あの距離で目が合わなかったのは。少し手を伸ばせば触れられる距離にいたのに、あの優しい笑顔が見れなかったのは。
段々と、胸の奥が締め付けられていく。
言いようもない不安が広がっていくような、そんな感覚だ。
俯いたまま歩いていれば、不意にジェイドさんから声を掛けられる。
「ところで、お嬢様……どうやって、この部屋を出たのですか?」
「え?…あ、何か最初中々開かなくて、でもちょっとしたら開きました。立て付けが悪いって感じでも無かったんですけど……。」
急にそんなことを聞いてくるジェイドさんに、何の事だ?と思ったが、部屋を出る時に扉がなかなか開かなかった事を思い出した。すると、私の答えにぽかん、と、珍しく驚いたように口を空けてるジェイドさんがいて、あれ、変なこと言ったかなと自分の言葉を思い返すも、そんな変な言葉は言っていない気もする。
どうしたのかと聞き返すとジェイドさんは我に返った様子で首を振った。
「、いえ……なるほど。そういうことでしたら後程ハイデス様にお伝えしておきましょう。」
少しぎこちなく笑ったジェイドさんが気になった。
部屋に入って、ソファへ座る私にハーブティーを淹れてくれる。香りが良くて、蜂蜜を入れた少し甘いやつだ。私の好きなもののひとつ。それに、リラックス出来る効果があるらしく、先程の部屋での空気を察して選んでくれたのだろう。
もう気が付けば冬も近いこの時期、暖かな飲み物がありがたく、カップを両手で覆うとその温かさに癒された。
「あの、ハイデスさんの事なんですけど…。」
どうしても気になっていた。
ジェイドさんならば、何か知っているだろう。
「あんなに具合が悪そうな姿、初めて見て……ルシスさんとも、何だか良くない雰囲気だったし…。ジェイドさん、何か知っていますか?」
ハイデスさんは、今まで私の前では決して弱い部分を見せようとしなかった。だから、私も、彼のそういった面を見たことがなかったし、同時に知らなかった。
だから、あんなにやつれた姿を見て驚いたんだ。同時に、少しショックだった。
それは、ハイデスさんにではなく、自分自身にだ。