第4章 3 夢か現か幻か
それはまた急な話だ。
でも、きっとセラフィムがまた来てしまう前に、私は安全な場所へ逃げなくてはならないのだろう。
私は無意識に、ちらりとハイデスさんを見た。
その間、どのくらい帰ってこれるのだろうか。
いや、でもどちらにしろ学園に行くと新入生は寮生活から始まるという。なら、変わらないと言えば、そうかもしれない。でも、決まっていた事とは言え、どうしても躊躇ってしまう。
私の気持ちを察してか、優しく微笑んだルシスさんが安心させるような口調で続けた。
「……何も、会えなくなる訳ではありません。まとまった休日には会えますし、何より今は少し此方は時間が必要なのです。それに、また奴が貴女を拐いに来たとして、護り切れる確証がない。あの学園は、本来天女を封印し、護る為の絶対防御の結界があります。この世界の何処よりも貴女にとって安全な場所の筈です。」
「……分かりました。よろしくお願いいたします。」
仕方がない、というよりも、それ以外選択肢がない。
決して嫌なわけではない。勿論、楽しみにしていたし、どんなことが待っているのかワクワクするのも事実だ。
ただ、気にかかるのは、何よりも私を大切にしてくれる、この人の事。
「構いませんね、ハイデス。」
ハイデスさんは、しばらく沈黙した後、あぁ、と、一言だけ言った。
恐らく、先程の怒鳴り声を聞いて近くに居た誰かが呼んだであろうジェイドさんが、何事かと部屋に来た。
既にシン、と静まり返り、何処か重たい空気すら感じるこの部屋の様子を見て何か察したのか、ルシスさんと目を合わせると、そのまま私の手を引いて部屋を出た。
私は、後ろ髪を引かれる思いでハイデスさんを見たが、ハイデスさんは一度として私の事を見ることは無かった。