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私を愛したモノなど

第4章 3 夢か現か幻か


ハイデスさんは、私がいるベッドの側の椅子に腰掛けた。
そうして自分の手元を握り締めたまま、俯いている。
いつもなら、そのままベッドに来て隣に座るのに。なんて思いながら、チラリと目覚めてから置かれたままの空になった薬瓶を見たが、それについては何も触れられなかった。

「…あの、ハイデスさんは、私が以前、あの彼と過ごしていたことを知っていましたか?」

「……ルシスが、その様なことを言っていた。」

気になっていたこと。私が知らなかったこと。
でも、ハイデスさんもやっぱり知らないみたいだ。

「私は、彼と、セラフィムと随分と過ごしていた、みたいなんです。でも、その時の記憶が、誰かに消されたのだと。私は、誰に記憶を消されたんでしょうか……。その記憶も簡単には戻らないって、ハイデスさんは、知ってましたか?」

「私は、なにも……、」

戸惑った様子で、視線を落とす姿に、私は何だか不安になった。そして目が合うと、自分がハイデスさんにまるで疑うような視線を向けてしまっていたのではという気になって、途端に顔を逸らした。

「っあ、…ご、ごめんなさい、あの、ハイデスさんを疑ってるとかじゃなくて、その……。」

「……いや、良いんだ。仕方ない。でも、何か分かるものがあるかもしれない、調べてみるよ。」

そうして、ハイデスさんは部屋を出ていってしまった。

変なこと、言っちゃったかな……ハイデスさん、何かすごい体調も良くなさそうだし、どうしよう。
明らかに聞くタイミングを間違えてしまった。
自分の事ばかりで、ちゃんと考えてから伝えるべきだったと一人落ち込んだ。
考えれば、この空いた薬瓶も、絶対にハイデスさんのものだ。私は恐らく飲んでいない。
ハイデスさんは、この量の薬を飲まなければいけない状態で、ましてや床に膝をついて私が目覚めるのを待っていたのだ。そんな状態なのに、私は何であんなことを聞いたのだろう、今じゃなくても良かったじゃないか。

あぁ、ダメだ。考えれば考える程に、何でもっと注意出来なかったのかと頭を抱えた。
せめて、せめて部屋を出る前にきちんと休んで欲しいと声をかければ良かった。
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