第4章 3 夢か現か幻か
柔らかな布団に包まれる、優しい感覚の中で目を覚ました。ここ数日、ずっと過ごしていた部屋。見慣れてきた天井。モノトーンで、落ち着いた装飾品。
段々とクリアになってくる視界に捕らえた景色に、何故か安堵した。少し体がだるく、ぼーっとしたがそれも目が覚めた最初だけであった。
ゆっくりと覚醒していく意識の中、ふと、手を握られていることに気が付く。
「、ハイデスさん……」
私の手を握ったまま、ベッドに上がることもなく、床に膝を着いた状態で眠っている。
ベッドサイドには、小さな空き瓶がいくつも置かれ、少し薬っぽい匂いがした。
上体を起こして、ハイデスさんの顔を覗き込んで、そっと髪を撫でた。
あれから、セラフィムから逃げるように屋敷に戻ってからの記憶が曖昧だ。
ただ、ハッキリと覚えているのは、ハイデスさんの酷く苦しそうな表情と、その腕に強く抱かれる熱。吐息、肌の交わり……狂おしいと、愛を囁く、その低く甘い声色だった。
ハイデスさんが、私に愛していると言った。いつからだろう、ハイデスさんの口から、その言葉を聞いたのは。
頬を撫でると、睫が揺れた。
「、ん……、っアンリ、…?」
そうしてすぐに、微睡んだ黒い瞳が私を捉えた。
「…ぁあ、アンリ、すまない、アンリ……体調は?どこか可笑しいところは?苦しくは、辛くはないかい?」
目が覚めた私を見るなり、焦った様子でこちらの様子を確認してきた。
「えと、大丈夫です……寧ろ、軽いくらいで…」
「本当に?、どこも悪くないのか?本当に、何ともないんだな…。あぁ、よかった……本当に良かった。」
ぎゅっと、手を握られた。
私、そんなに危ない状況だったのかな?
泣きそうなほどに、良かった、良かったと繰り返すハイデスさんに何だか申し訳無くなって、思わず小さくなってしまう。
全部、私が彼に会わなければ良かった事なのだろう。
まだ、私の中にあるセラフィムへの意識と、こんなにも私の事を思ってくれているハイデスさんの姿とで心の中がぐちゃりと音を立てたみたいだった。
すると、軽いノック音がして、ルシスさんが入ってきた。