第2章 1 箱庭
一通り済むと抱き上げられて、そのまま暖かい湯の中に浸かった。
ここ、お風呂だったんだと二度目の認識をする。
ゆっくり肩にお湯がかけられて、落ち着いてくると一気に眠気が襲ってきた。
もう私の体力と気力は欠片も残っていなかった。
昨日まではこんなことになるなんて思ってもいなかったから、昨日までの時間が遠い昔の事のように感じる。
勿論、この世界に来る前のことなど意識すらしなくなっていた。
あったかいお風呂でうとうとしながら、その身を彼に完全にあずけていた。
身体はしっかりと抱きしめられている為、溺れることは無い。
「フフ、眠くなっちゃった?無理もないよ。ちゃんと意識があっただけ偉いよ。」
本当に甘く優しい声をかけられても、私はんー、とか、んんう、とか意味を成さない音を口にすることしか出来そうになくて。
同時に、私は彼の名前を聞いていないことに気が付いて、必死に何かを言おうとするのだけれど私を襲う眠気の方が格段に強くて、なんて口にしたのか分からない。
貴方は誰なの?
貴方の名前を教えて欲しい。
私に貴方を教えて欲しいの。
「いいよ、無理しないで……今は寝ちゃって良いから。目が覚めたら教えてあげる。」
そう言ってまた優しく口付けられる。
目が覚めても傍にいてくれるの?
そう思って彼を見ると、彼はキラキラと輝く空色の瞳を優しく細め、きっと世の中の女の子は全て恋に落ちてしまうのではないかというほどにキレイな微笑みを浮かべてゆっくりと頷いた。
まるで私が考えていることを全部見透かされているみたいで、でも例えそうだとしても私は嬉しいと感じるだろう。
寧ろそのことを自ら望んでしまう。
抱きしめられる彼の腕の温もりに包まれて、この温もりをいつまでも感じていたいと、そう思いながら私はついに意識を手放した。