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私を愛したモノなど

第4章 3 夢か現か幻か



首筋に舌を這わせて、ほんの少し汗ばんだ柔肌を堪能する。
アンリの肌は、どこも甘かった。
それは飽きさせないどころか、触れれば触れる程、味わえば味わう程に私を狂わせていく。

このまま彼女と二人、共に狂ってしまえたならどんなにいいかと考えもしたが、きっとそんな未来は存在しない。
きっと、私一人、果てしない地獄の底で永遠に彼女を求めて彷徨い続ける、そんな未来しか見えないのだ。きっと私を置いて、彼女はこの腕の中からするりと抜け出てしまうのだろう。

狂おしい。

そう思うと、どうしようもない衝動に駆られてしまう。しかし、もうそれに抗うことなど出来る筈もなく、気が付けば彼女の肌を隠す薄布を剥ぎ取っていた。
目の前に晒される白い絹肌をどうにかしてしまいたいと、そればかりが脳を支配する。
恥ずかしそうに、そして私を見上げるアンリの瞳が不安気に揺れる程に、恐ろしい劣情に襲われるのだ。

そうして、思う。
あぁ、私はこれから本当に彼女を喰らうのか、と。
それも魔力の一切も残さずに喰らうのだ。そうなれば例え嫌がろうとも、苦しもうともきっと抑えることは出来ない。

「、ハイデス、さん……?」

あぁ、どうか、どうかこのまま気が付かないでおくれ。
この行為の本当の意味を。

私が向けるこの感情が、何よりの真実なのだと。
君を想うこの言葉に、一切の濁りなど無いのだと、どうか伝わっておくれと心の底から願った。

「…すまない、アンリ……愛しているよ。この先も、ずっと…」

息が詰まりそうだった。

私のこの胸を抉るその感情に気が付いてか、そっと頬に伸ばされたアンリの手が届く前に、その手を握り、指先に口付けた。
彼女が何か口にしようと、開きかけた唇を私のそれで塞いだ。

「、んぅっ…!」

口付けて、舌を絡めて、己れの魔力を注ぎたくなるのを堪えた。そんなことをしたとしても、私の魔力の一切を受け入れない彼女に、その現実を受け止めることが私は出来ないだろう。
今、私が彼女に向けた多くの感情に、彼女は気が付かない。受け止められることなくこの手から滑り落ちたそれらは、私の目の前でバラバラと床に散らばっていく。
それでも、構わなかった。

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