第4章 3 夢か現か幻か
「あぁ、アンリ……それは君のせいではない。大丈夫、何も謝ることなど無いんだよ。それに、君の助けを求めるその先が私であったことが、今何よりも嬉しい…本当に、本当に嬉しいよ。」
「…そんな、だって、私まだ、ハイデスさんの気持ちに、ちゃんと応えられてない……なのに、こんなこと求めるだなんて、最低で……」
「そんな筈があるか。」
それ以上のアンリの言葉を遮るかのように、食い気味に言う。
「良いんだよ、それで良いんだ。勿論、君の気持ちが私と同じものであったのならどれ程に幸せだろうかと、そう思わずにはいられないが……でも、私は君の手を伸ばした先に私が居ることが本当に嬉しいんだ。アンリ、君が私を拒絶しないでくれるのが、堪らなく嬉しいんだよ。」
「、何で、そんなに、優しいんですか……。」
ついにその大きな瞳に溜め込んだ涙をはらはらと溢しては、詰まる息を小さくしゃくり上げる彼女と視線が合う。
しかし、私はその言葉に胸の奥が捻れ返るような思いであった。
優しい?優しいだって?
そんな筈、あるわけがない。だって、今から私がアンリにする行為は、下劣で浅ましく、醜悪をそのまま形にしたかのような行いだ。
そんな男のどこが優しいのだ。今、彼女が考えている事と、私が考えているものの温度差に堪らない罪悪感を感じていた。
喉につかえて出て来ない、例え何か言うとしても、何と言葉にすれば良いのか分からない。そのあまりにも複雑な感情を、ぐちゃりぐちゃりと一人静かに噛み砕き、彼女に悟られぬよう強引に呑み込むしか出来なかった。
「……私は、優しくなんて無いよ、アンリ……君が思っているような、そんな出来た男ではないんだ。」
乾いた喉がゴクンと小さく音を立てた後、やっと出てきた言葉はそんな情けないものであった。