第4章 3 夢か現か幻か
小さく咽込んだ彼女の頭を撫でる。
やっぱり、そんなことをするのはと頭で考える一方的で、あり得ないくらいその中心は既に熱を持つ。
この部屋がもう彼女の魔力で満たされている為か、今すぐにでも触れたくて堪らなくなっているのは私自身、苦しい程によく理解していた。
どうしようもない衝動に、唇を噛み締めていると、ふとその頬に触れるものがあった。
言葉は無い。
しかし、心配そうにその細い手が触れ、見上げる瞳は透き通っていた。
こんなにも辛そうな状態だというのに、彼女は私を心配してくれるのかと自惚れてしまうくらいに、今はハッキリと彼女の視線に私が写っている。
「あぁ、アンリ……私の声が聞こえるかい?」
ゆっくりとした瞬きが返ってくる。
それがきっと肯定であろうと信じるしか出来ない私は、そんな哀れな己を笑った。
醜い欲望の渦巻くこの胸の中など、何も知らないこの子はあまりにも美しい清んだ瞳を私に向けていた。
大切にしたいと、そう思いながら早く天使に穢されたその身を塗り替えてしまえと衝動を掻き立てる者が居る。
やめろ、私はそんな醜い感情で彼女を失いたくはないのだと、嫉妬に狂いそうになる自分を押し殺した。
己の頬に触れる彼女の手をそっと掴むと、噛み絞めた想いを悟られぬよう掌に唇を寄せる。
「私は、君の中にどれくらい、存在出来ているのだろうか。」
「……ハイデス、さん…?」
彼女の口から己の名前が紡がれるのが、堪らなく嬉しかった。例えそれが朧気な視線であり、映した筈の私がその瞳の中で不安げに揺れていたとしても。
「私の中にはもう、君しか居ない。君以外居ないんだよ……アンリ。いつしか君の存在が、私の中で抑えきれない程になってしまった。」