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私を愛したモノなど

第4章 3 夢か現か幻か



普段よりもどこか重々しさを感じる扉が、キイと小さな音をこの静かな部屋に響かせて開いた。
後ろ手に戸を閉め、ゆっくりと奥に進むと己の部屋だというのに、まるで知らない場所の様な緊張感を感じた。

部屋の中は、あまりにも静かだ。
奥のベッドで静かな寝息を立てるアンリは、酷く苦しそうにして、眉間に小さな皺を寄せている。
そう悠長にしていられる時間はない。許容を越えた魔力は身体への負担があまりにも大きく、彼女は今それと戦っているのだ。
その証に、本来の栗色の柔らかな髪は今白く透き通るような色へと変わっている。その、彼女の柔らかな御髪を指先で撫でると、さらさらと指の間を滑って白いシーツの上に落ちていった。

手にしていた薬の瓶をベッドサイドに並べる。

それを一つ手に取ると、静かに眠る彼女を起こさないように、ゆっくりとベッドの端に腰かけた。
月明かりのみが差し込むこの部屋で、風に流され揺れる雲の影が床に映し出されるのを静かに見ていた。
形を変え、色を変え、ゆらりゆらりと漂うそれを見ていた。

手元の瓶に光が反射して、僅かなプリズムが部屋を彩る景色は、確かにか細い美しさを醸し出した。

その小瓶を少し揺らすと、ちゃぷ、と中の薬が波を立てる。

んん、と、少し寝苦しそうな声を出す彼女に、上の空だった意識が引き戻される。
額に掛かる前髪をそっと分け、触れるだけの口付けをした。

今の状態の彼女を、ルシスに差し出す事は出来ない。
それこそ嫉妬に狂ってしまう。私ではない者に狂わされたアンリを、私ではない者が助け出すだなんてどうしても許せなかった。
あの時の問いの答えなんて、決まっていた。

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