第4章 3 夢か現か幻か
それは、ようやく彼女の濡れたあの柔らかなその先に私の欲望を打ち付ける事が出来るのだと、私の耳元で囁いた。何度も、何度も、それこそ彼女の魔力が枯れるまで。
残酷にも、鮮明に蘇るぐちゃりと滑るあの感覚、熱く蕩ける桃色の蜜壷。
全てが愛おしかった、あの時間。
味わったばかりの彼女の感触に、頭の中が支配された。
違う、違うのだと言い聞かせてもどうしようもない。
私は彼女を、アンリを愛したい。
愛した人を、愛することの出来ないこの現実を、受け入れる事を脳が拒絶し続けている。
例え彼女が助かっても、例え彼女が大丈夫だと口にしても、私のこれから行う行為は、許される事ではないのだから。
あぁ、決して踏み入れてはならないその先にしか、彼女との未来は残されていないのか……?
でも、万が一にでも、その中で彼女が私と繋がってくれたなら……。
そこまで考えて、己の魔力の一切を受け付けない彼女と、どうやって繋がるというのだと自らを嘲笑った。
ああ、この世に神が居るというのならば、何故こんなにも不条理な理をこの地に刻んだのか。
それが、人々の犯した罪の証なのか。
あぁ、そもそも、この世に神など、いないのか。
そうだ、この世にあるのは絶望をその手に乗せ、否応無しに差し出してくる、白く輝くおぞましい化け物どもだ。
彼女の手を取って、いつかその時が来たならばと、この胸に抱いていた想い。
彼女が私に誓いを立ててくれるのであれば全てを捧げられると思っていた。そうして、これからの、気の滅入る程の長い時を、共に過ごしてくれたならと。
こんな私でも、彼女と繋がる事が出来たなら、と。
夢にまで見た、愛する人と繋がるその甘い時間。それは互いの先の命を分け与えるただひとつの行為の筈だった。
誰しもが夢を見る、そうして愛し合った者達は何よりも幸福な時間だと言う。
でも、私達にその時が訪れることは無いのだと、あの化け物が私を嘲笑った。
彼女が助かるのならば、そう言い聞かせても、息が詰まる鳩尾がせり上がる感覚が消えない。
でも、今彼女に触れる事が出来るのは私だけだ。
いくら罪を犯す事だとしても、この役を誰にも譲ることは出来なかった。私ではない誰かに、彼女を奪われる等許せなかった。
こうして世界はあまりにも残酷な形で、その歪んだ切符を私に手渡した。