第4章 3 夢か現か幻か
淡々と、冷静に話すルシスに、冷静さを取り戻した頭がやるせない思いを抱えながらも先程とは対象に一気に冷えきっていくのを感じた。
「、……少し、一人にしてくれ。」
「分かりました。ですが、今夜中に覚悟を決めなさい。でなければ、明日私が引き受けましょう。」
パタン、と静かに閉じたドアを背中で感じながら、この荒れた部屋で一人立ち尽くしていた。
無意識に、頭を掻きむしっていることに気が付くがもうそんな事どうでもよかった。髪が乱れるのも忘れ、このどうしようもない現状に、私はただただ焦燥感に駆られるだけであった。
手当たり次第にこの腸が煮え繰り返る程の感情をぶつけて回りたいくらいだ。苛立ちと絶望と、有り得ない程の興奮がこの時の私の頭を支配していた。
それくらい、ルシスの提案は有り得ないものであった。
補食。
それは、禁止されている行為だ。
人として、法として、決して許される行為ではないのだ。
相手の寿命を縮め、己の力を高めるもの。
途中で止めるだなんて、そんな器用な事は出来ないと聞く。したがって、その相手は死に至ることが殆どだ。
魔力持ちを手に掛けるということは、その一族の血を絶つ事に繋がる。魔力のせいで子を成すことが難しい故に、そう何人も子がいる貴族は少ない。今まで培ってきた、その一族の血を根こそぎ奪い取る行為である。
ただ人を殺すよりも罪が重いのは、そういった理由からだ。
それを、私がアンリにするのか…?
これから…、?
手が震えた。
何故かだなんて、そんなものを聞かれては私は今にも気をやってしまいそうだった。
だって、夢にまで見た。彼女と繋がる夢だ。
あぁ、でもそれは違う。分かっている、分かっているだろうとも。
私が求めるそれは喜びに満ち満ちたそれであって、こんな、こんなにもおぞましい行為ではないのだ。
心臓が抉られるようだった。
目蓋の裏に写るのは、嬉しそうに、そして気恥ずかしそうにはにかんで、私の名を呼ぶアンリの姿だ。
同時に、その柔らかな笑顔に手を伸ばしたくて仕方の無いこの想いが酷く歪な姿で抉れた心の臓の隙間から顔を出す。