第4章 3 夢か現か幻か
「そんな、万が一があったらどうするというのだ!私が彼女に手を掛けることになるのだぞ!ッこんなにも、こんなにも愛した彼女を、私にこの手で殺せと言うのか!?」
「それはあり得ません。断言出来ます。天女は魔力を吸われた程度で死にはしません。天女は魔力と生命エネルギーの別の核を有しております。」
やめてくれ。
あれ程迄に夢見た、その行為を、こんな形で手にするだなんて。
手が震え、胸の、鳩尾の奥が捻じれ返ったかのような感覚。血の気が引いていくような想いだというのに、その行為を想像しただけで恐ろしい程の昂ぶりを感じる。
全身の血がまるで逆流したかのようだった。
堪らずに頭を抱えたが、この心臓は信じられないくらい高鳴って、荒くなる呼吸を静められない。
彼女に触れた時のあの滑らかな肌の質感、柔らかな唇、艶やかな甘い声と、目眩のする程に濃いあの魔力の味が、私の中でフラッシュバックする。
やめろ、違う、これは、そんな行為ではないのだ。
己の快楽を貪り、更には美しく細い喉元に手を掛ける、まさにそういった行為なのだ。
「だ、だとしても…、一方的に補食するだなんて、決して許された行為ではない…、そんな下卑た真似を、私が彼女にすると、…?」
「ならば、私がその役を変わって差し上げましょうか?私は一向にかまいませんよ。それすらも嫌だというのであれば、彼女を奴に差し出すしか手はありませんが。」
「……クソッ、クソが!!!っふざけるな!!、なぜ、どうしてこうなった!」
立ち上がり、ガンと机を蹴飛ばした。
涼しい顔でそれを避ける目の前の男に、無性に腹が立って仕方がない。それが例え己の師であろうが、誰しも恐れる死神であろうが、そんなことは関係のない程に今の私は激昂し、屋敷中に響くのではと言う程の怒鳴り声を上げていた。
同時に、ガシャン!と激しい、つんざくような音を立てて花瓶やら何やらが床に飛び散り部屋を汚した。
引っくり返った机が、カウチの裏で静かになった時、ルシスが、はぁと溜め息を吐いた。
「本来、作り続けられる天女の生命エネルギーに、肉体が耐えられなくなるのを止めるために魔力へと変換させ、さらにそれを耐えず吐き出させるのがいわば天女の姿です。しかし、アンリはかつての天女のように吐き出させることは出来ません。ならば、減らしてやるしかないのですよ。」