第4章 3 夢か現か幻か
軽い休息を、と思っていたが、予想以上に眠りこけてしまった。
まさか、半日以上も眠っていたというのか?
泥のように眠ったというのに気怠さの残る身体を、熱いシャワーで目覚めさせ、もう既に日の落ち切った窓の外を横目にルシスの元へ急いだ。
長い脚を組みカウチに腰かける姿は相変わらず無駄のない見事なものであったが、その表情はあまりにも険しい。
「……ハイデス、彼女の、アンリ嬢の異変ですが、原因が分かりましたよ。」
「本当か?どうだったんだ、何か打つ手は…。」
この時、私はこの男さえいればという、あまりにも他人任せな期待を己の中に抱いていたのだという事に気付かされる事になるのだ。
「現時点では、何も。」
「……なんだって?」
耳を疑った。何も、打つ手がないのだとしたら、彼女はどうしたらいい?
溢れ続ける魔力がその身を犯し、暴走してしまったなら最悪永遠に床に伏せることになる。
然程魔力も強くない人間ならば、魔道具や薬、魔法でどうにかすることは出来ても永遠に溢れ続ける彼女の魔力を受け止めることが出来るものなど、現時点では存在しない。
彼女の体は、精神は耐えられるのか?
そんなの、無理に決まっている…。
「……原因は、何だ?」
「天使の仕業です。全く恐ろしいものを残していく……肉体に直接、術式を刻まれています。封印魔術の類いですが、私とは少々魔力の相性が悪く、壊すことは出来ても解くことが出来ません。」
「、本当に、無理なのか?」
「……肉体に、と言いましたが正確には複数の器官に渡り直接刻み込んでます。詠唱魔法等ではない、古来から成る揮毫魔法です。魔力を墨に肉体に直接魔術式を書き込むものです。刻まれたその跡は剥がなければ消えないようなものだ。胎内に刻まれたそんなものを、どうやって剥がせと?」
「、な、嘘だろう…、?」
倒れ込むようにして、背後のソファへ尻を付いた。
まて、嘘だろう?
馬鹿を言うな。
「幸い彼女の身体に術式が悪影響を与えている様子はありません。あれ程複雑なものを肉体に完璧に作用させるとは、良くやったものです……だが、今まで中和出来ていた魔力がそれを拒んでいる。加えて、奴の影響なのか彼女自身の力が強くなっています。手を打たなければ、このままでは彼女は第二の眠り姫ですよ。もう既に、意識も危うい時が多々あります。」