第4章 3 夢か現か幻か
あのまま彼女の隣で眠ることは少々今の私には堪える為に空いた客室に入るとベッドへ腰を下ろした。
すぐに部屋を調えるジェイドに、適当でいいと伝え代わりに蒸留酒を持ってこさせた。
カランとグラスの中で音を立てる氷が、琥珀色の中に小さな波紋を拡げていくのを見届ける前に、軽く呷る。
酷く気怠い筈なのに、今すぐに眠れる気もしなかった。
ぼんやりと、あまり自分では眺めることのない壁を見詰めながらも、気が付けば無意識に深いため息を漏らしていた。
嫌な胸騒ぎにも似た何かを感じるが、今はそういった不確定な出来事から目を背けたかった。
ただでさえ、今回の事で何も解決していないというのに。
きっと、ここまでの結界を突如張った事がバレたなら王国が何かを察するだろう。
ザユドの暗部の動きに目を配り、急に現れる天使の襲撃に備えながらの天女の捜索。そろそろ、軍だけでなくその上層部が痺れを切らす頃だ。
誰が見ても、天使も天女を探している事は明確だ。
天女がザユドへ渡っていない事は、その時点で分かっている。
そうして、天使の襲撃がじわじわとこの国に集中し始めている。
この国のどこかに居るのだと、誰もが感じ取っている中で、この事態はあまりにもマズイ。
彼女に触れたい等と言っていられる状況ではないと言うのに、まだあの甘い魔力に酔わされた感覚が抜けてくれない。
無意識に指先が唇を撫でた。
彼女を隠すか、共に逃げるか。
そんな馬鹿げたことを考えるが、今の私には最適な考えは巡っては来なかった。
逃げ場など、今の段階であれば探せばある筈なのに、私はこの手から彼女が離れてしまうその選択肢を選べないでいる。
答えの出せないまま私は気が付けば完全に氷の溶けたグラスの中身を飲み干して、舌に残る苦味と鼻を抜ける甘い薫りにほんの少しだけ、拗れた頭の中を意識するのを忘れた。
そうして冷えたベッドへ潜り込むと、強引に目蓋を閉じて暗闇へと一人逃げ込んだ。