第4章 3 夢か現か幻か
一度ルシスと別れ、少し落ち着いてから彼女のいる部屋の前に立つ。
都度、結界を解かなければならないこの部屋にいる彼女は、完全に監禁状態だと言っていい。
そろそろ、その事にも気が付いている頃だ。
だとしても、この部屋から出してやる訳にはいかない今の状況に、歯痒さを感じながら、ゆっくりとそのドアノブを回した。
ベッドには居らず、彼女は一人窓際に佇んでいた。
「……アンリ?」
「……彼が、呼んでいる気がするの。」
細く、消えそうな声で紡がれたその言葉に、血の気が引いた。唇が震え、手足が震える。
彼女は、窓の向こうにある、あの場所を見詰めていた。
「っ、ダメだ、アンリ……行かないでくれ。」
思わず抱き締めた彼女は、振り払うこともしなかったが、まるで反応がなかった。
目の焦点が合っていない、それは幻覚の類いを見せられている時の症状によく似ていた。
「でも、どうして?そんなに、悪い人じゃ無かったよ…優しかったもの。」
「そんな筈はない。君を騙しているんだよ。」
「何でそんなこと言うの?…だって、彼も私も、全部、気持ちが通じてたんだもの。それに、彼はこんな閉じ籠めることだって……」
「、アンリ!!お願いだ、目を覚ましてくれ…、頼む、…。」
思わず、彼女の言葉を遮った。
何が正しいのかだなんて、私自身、分かっていなかったのだから。
この張り詰めた空気の糸をプツンと切り落とすかのように、小さくドアをノックされる音が響いた。
「失礼いたしますよ。ハイデス、少しアンリ嬢の様子を見せなさい。」
割って入るように現れたルシスに、ハッとしてアンリから離れた。
可笑しいのは分かり切っている。
冷静でいられない私が、今ここにいて出来ることなど無いに等しい。
抱き締めていた腕を離すと、ふらりと体勢を崩したアンリをルシスが支える。
「これは、危ない状況かもしれませんね。彼女の体内に保てる魔力の容量値の限界が見えてきている。少し眠らせましょう。」
額に触れると、すっと意識を吸われるようにして目を閉じた彼女を支えると、そのままベッドに運ぶ。
「お前も疲れているのでしょう。少し休んでくるといい。」
「……、すまない。」
静かに眠らされた彼女を見て、それ以上何も言うことも出来ず、私は部屋を後にした。