第4章 3 夢か現か幻か
応接間に入ると、ルシスがメイドに茶を煎れさせているところだった。
よく見ると少しだけ髪の纏まりが悪い。
それもそうか、数日かけて天使除けの結界を完成させた後なのだ。何食わぬ顔でここにいる事すら不思議に思える。
窓の外を見ると、空気の光に交じり、物々しい結界陣が取り囲んでいるのが分かる。
天使と、国と、両方から彼女を隠すのは相当骨が折れると頭を抱えた。
「…ルシス、アイツは、何者なんだ?あんな天使、見たことも無い。」
そう、問題は何よりもアンリを狙って現れた、あの化け物だ。
今まで地上に降りてきた天使はいずれも異形の姿をし、人間の言葉を模造した音を発するそれであった。
ごく稀に、それらを束ねる存在の、半身のみ人の形をした上位種が存在することは知らされてきたが、あれは人と変わらないではないか。
天使である証の筈の羽すらその体には存在していなかった。
「言わば、天使の最上種。神の母体より直接生み出されたオリジナルです。管理者である彼らが人間の目の前に姿を現すことは疎か、地上に降りる事すら、まずありませんからね、知らないのも無理はない。」
「どういうことだ?何故そんな奴がアンリを狙う?天女を神が狙っているとでも言うのか?それに、彼女の様子が可笑しいんだ……私の魔力を受け付けなくなっている。」
「……魔力を?彼女自身が嫌がると?」
「いや違う。反応がないんだ。まるで弾かれているかのような…。」
「……少し確認する必要がありますね。ハイデス、先に彼女の元へ。様子を見てきてください。私も少し整えてから向かいます。」