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私を愛したモノなど

第4章 3 夢か現か幻か



「こらこら、出すんじゃありません。」

ごほごほと咳込むこちらの様子など気にも留めない素振りで、しゃがみ込んだ私を壁に追い詰めるとこの男は再度同じように薬を口の中に突っ込んでくる。

「ほら、もう一度。」

もう一度等と言いながら、一度に二つの薬を入れてきてこちらのタイミングを待つことも無く再び薬の殻が割られる。
これで飲み込めという方が可笑しな話なのだが、私がまた上手く飲めないことを見越して、なんとこの男は私の頭を押さえ付けてその口元を手で塞いできた。

「っンンッン、!ヴッ、んっ!!」

「こら、暴れるんじゃありません。大人しく飲みなさい。」

ふざけるなと、悪態を吐きたくて堪らない状況だが、それが叶わないのもまた確かで。
やっとの思いで何とかそれは喉を通ったが、逆流した少量の薬が鼻腔を通って酷くツンとした痛みが残った。

「ふむ、今度はきちんと飲み込めましたね。偉いですよ。」

そういうルシスを上手く視界に捉えることが出来なかったのは、魔力酔いによるものではなく先程の痛みによる生理的に溢れた涙によるものだという事はすぐに理解できた。

「、もう少し、加減というものを…、」

「何を甘えたことを。これでも十分優しくしましたよ。」

ああ、そういえばそうだ。ここ最近アンリが側にいたため随分と丸くなった態度にすっかり忘れていたが、本来この男はそういう人間だったと過去の記憶を思い起こしながら、少しずつ感覚の戻ってきた体を起こした。

一気に薬が身体を巡り、感覚の鈍った末端に血が通うような感覚と共に動きを取り戻す。

「動けるのならば、そのみっともない格好をどうにかしてさっさと来なさい。話があります。」

背を向けて歩き出す後姿を眺めると、急いで一人乱れた衣服を整えた。
部屋の結界を、と思ったがいつの間にかルシスが結界を閉じていた。

抜け目の無い男だと思いながら、もう既に見えなくなったその背中をいい加減追わなければ、何をされるか分かったものではない。嫌味の一つや二つで済むうちにと、若干ふらつく脚に鞭打ちその後を追った。
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