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私を愛したモノなど

第4章 3 夢か現か幻か


さすがにもう、疲れたのだろう。
途中ハッキリしてきていたアンリの意識はまた次第にぼんやりとしてきていて、私の手を小さく握り返すだけだった。

少し、いや、大分タガが外れてしまった。
それでもぎゅっと彼女を抱きしめたままでいると、急な眩暈に襲われる。
これは、前にルシスが言っていた魔力酔いか。
あれだけ彼女の魔力を吸ったのだから、当然か。
既に腕の中で小さな寝息を立て始めたアンリをそっと離すと、世界が回る感覚と共に手足の末端と唇から血の気が引いていくのが分かる。
さすがにやばいと思ったが、頭が上手く働かない。

ずるりとベッドから降りて、部屋の扉を何とか開けたところで体勢を保てなくなる。
そのまま勢いよく床に倒れ込みそうになるのを、ガッと腕を掴まれる形で支えられた。

「おやおや、これはまた酷い魔力酔いですね……この私をコキ使っておきながら、お前はあの子とお楽しみとは、随分と偉くなったものですねぇハイデス?」

黒く伸ばされた長い髪、全身を覆う黒いローブに、私を見下ろす背丈。そしてこの皮肉交じりな物言い。
その人物が誰なのかだなんて、態々確認する必要もないが、残念なことに今の私にはそんな余裕すらもなかった。

「う、…ぁっ…、」

目は焦点が合わず、呂律も回らない。

「馬鹿ですね、あれだけ気を付けろと言ったのに。」

呆れたように言うこの男は無造作に私の顎を掴むと、無理やり口をこじ開けて徐に指を突っ込んできた。

「ほら、飲みなさい。」

同時に何か小さな球体のものを入れられた。
それが前にも飲んだ薬だという事は分かったが、あいにく飲みやすいように殻を割ってある状態などではない。
立つのもやっとな今の状態でそんなもの口の中に放り込まれたところでどうやって飲めというのか。上手く嚙み砕く力など残っていない。

「噛みなさい、ハイデス……全く、困った子だ。」

それはこちら台詞だと、目の前の男を睨んだ途端に、ぬるりと私の口の中に再び長い指が入ってきた。

「ァ、がっ…んヴッぅ…!」

壁を背に凭れ掛かるが、それでも上手く体勢を保てない。
ずる、と崩れ落ちそうになったところで、急に口の中で何かが弾けた。

「…んぐっ、ぅっ!?、ゴホッゴホッ!!」

咥内に広がる刺激に、ルシスが薬を手で割ったのだと理解はしたが、突然の事に噎せ返り飲み込むことは出来ない。

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