第4章 3 夢か現か幻か
夜は抱きしめて眠り、熱に魘されるようであればすぐに魔法での処置を行う。
虚ろな瞳で口付けをねだるような素振りを見せる彼女が、唯一、この今にも崩れ落ちそうな、私のちっぽけなプライドを支えてくれる。
「ん、っふ……、ぁ」
熱い舌が絡んで、とろけた彼女の瞳に、確かに私が映っていることを確認すると、酷く安堵する自分がいた。
だが、毎晩こうして彼女に口付ける私は、彼女の中に巣食うあの化け物との記憶に、この想いが遠く及ばないのかと思っては、この胸を掻き毟りたくなる衝動に駆られているのだ。
「っハイデス、さん…、ごめんなさっ、ごめんなさい…」
小さな嗚咽を漏らしながら、私の名を呼ぶ。
可哀そうに、また、奴の夢に惑わされているのだろう。行き場の無い熱を持たせた体を隠すようにして、彼女はその細腕で震える体を抱きしめるのだ。
泣きそうな表情で私を見つめるアンリにゆっくりと、深く深く口付ける。そうして、次第に抑えられなくなっていく甘い声を聴く。
甘く香る、彼女の魔力を感じながら、柔らかな肌を撫でる。
ごめんなさい、ごめんなさいと泣きじゃくりながら言う彼女をあやす様に頬を包み、またキスをする。
「……アンリ、大丈夫、君が気に病むことは何もないんだよ。」
かなり、魔力が乱れてきている。そのせいで気持ちが混乱しているのだろう。
顔を手で隠すようにするアンリの手を掴み、そっと覗き込むようにしてその流れ落ちる涙を唇で受け止めた。
「大丈夫だから、こっちを向いて、アンリ……私の名を呼んでおくれ。」
「ハイデス、さん…、」
震える手が、ゆっくりと離れ、私を見つめる酷く困惑した、助けを求めるような瞳に、思わず喉が鳴った。