第4章 3 夢か現か幻か
苦しそうに、どこか魘されるようにして眠る彼女に、軽い鎮静作用のある精神の保護魔法を与えた。
その、少し穏やかになった表情に、今にも壊れてしまいそうな程に張り詰めたこの思いが少しだけ和らいだ気がした。
扉を閉め、部屋を出ると幾重にも施された、王都ですらあまり見ることの出来ない程の、対天使除けの結界の数々を見上げた。
それを更に、外側から一つ一つ繋いでより強固なものにしていく。
全てを塞ぐ頃には、気が付けば額に軽い汗が滲んでいた。
はぁ、と重たい溜息を吐くと、私はすぐ後ろの壁に凭れ掛かり、このあまりにも物々しい結界の壁を見ていた。
私は、気が付くことが出来なかった。
彼女の傍にいては、私はその傲慢さから、彼女を私の腕の中に閉じ込めてしまいそうになる。
故に距離の取り方を、模索してしまっていた。付かず離れず、彼女の意思を尊重出来るその場で、見守っていきたいと。
だが、現実は甘くはなかった。
彼女を狙う何かが居ないとも思ってはいなかったが、まさか、あんな化け物がずっと彼女を探し続けていただなんて。
彼女を守りながら、あわよくば私を見て欲しいだなんて子供じみた甘い考えであった。
私は、己の無力さを叩きつけられた。
この国で、黒魔術師という立場に甘んじてそれ以上の力を私はもう求めてはいなかった。傲慢さから、彼女を失いかけたのだ。
彼女を守るために闘わなくてはならない敵は、そんなものではなかったのだ。
到底人の身では辿り着けない力を持って、初めて互角に剣を交えることが出来るのだろう。
今の私はこの場において、あまりにも、無力だ。
絶望とも言える無力感に苛まれそうになりながら、重い腰を上げた。
完全ではないが、ルシスと二人、屋敷の結界の強化を行う。
学園からの支援も秘密裏に要請し、何とか対天使避けの結界の構築にこぎ着けた。