第4章 3 夢か現か幻か
ルシスさんを残し、屋敷に戻ると慌てて降りてきたジェイドさんに2、3指示を出すと真っすぐにハイデスさんの部屋の扉を潜った。
バン、と大きい音を立てて閉められた扉に一瞬ビクリと身を強張らせたが、私をソファへと降ろす動作はとても丁寧だった。
同時に、部屋全体に何か結界のようなものをかけると、すぐに私に向き直った。
「、酷い発作だ……制御が効かず、様子が可笑しかったのはあれのせいだったのか。」
額に手を添えられて、その冷たさに、私の体温がそれだけ高くなっていたのだという事に気が付いた。
屋敷に入ってから、ずっと止まらなかった手足の震えと、混濁した意識は次第に薄れて治ってきていた。
「……何故、言わなかった?私に黙ってアレのところに行っていたのか?」
「、ごめん、なさい……きっと、会ってはいけない人なんだってことも、分かってた。……でも、ずっと夢に出てきてて…」
「あぁ、夢まで乗っ取られていたとは……アンリ、よく聞いて。アレは天使だ。前に君を襲ったものと比べ物にならないくらい力を持っている、恐ろしい怪物なんだ。絶対に関わってはいけない……絶対にだ。」
俯く私の肩を掴んで、真剣な表情で話す、ハイデスさんの言葉を私は真っすぐに聞き入れることが出来なかった。
そうだよ、だって、私の知っている天使は間違いなく彼の事なのだから。
あんな化け物なんかじゃない、キラキラした、優しい、彼なのだから。
けれど、今日初めて見た彼の一面に恐怖している私が居ることも事実。たった一つの顔しか持たないヒト等存在しない事は分かっているのに、それでも今日の彼は確実に畏怖の対象の一つであった。
でも、それでも最後に私を呼んだ彼は、間違いなくあの私に狂おしい程の愛を囁く彼であった。
故に、分からなかった。
恐ろしい化け物だと言い、一方的に排除しようとする程の存在なのか。
それだけの力を持っているのであれば、いつだって私をどうにでも出来た筈なのに。
薬を飲まされて、少し軽くなった体をぼんやりと見下ろしながら、彼に会わなければこんな事にはならなかったのだと、そう思う。
それなのに、私は彼の記憶を消すことは不可能だ。
頭を抱えると、急に訪れる目眩によろめいた私を、ハイデスさんが抱き止めるとそのままベッドへ寝かされた。
「アンリ……悪いことは言わない、全て忘れなさい。」