第4章 3 夢か現か幻か
「、僕の結界を壊すなんて……。」
この時、初めてセラフィムはその目の色を変えて、明らかな焦りを見せた。
それは一瞬の隙だった。
完全に誤算だったのであろう。
バラバラと結界が碎け落ちる空間の中、頭を抱えて落ちてくるそれに耐えていた私は何も気配もなく現れた何かに捕らえられたのだ。それは音もなく、私の身体ごと短くない距離を一気に引き寄せた。
それに気が付いたセラフィムが、光の筋を私へと伸ばすが、届くそのすぐ手前で弾かれた。
ハイデスさんに抱き止められた私は、目の前に立つ漆黒を纏うその人を唖然と見上げていた。
「フフフ……よくぞ、持ち堪えましたね、ハイデス。後は私に任せなさい。」
「ッ、またお前は僕の邪魔をするのか……、」
「ええ、何度でもね。…身体を持たぬまま、精神体で結界を張って来たのは間違いでしたね。余程気が急っていたのでしょうが……そんな状態では私の相手にはなりませんよ。」
一気にぐにゃりと空間が捩れてセラフィムが遠ざかっていく。
セラフィムがいる空間がまるごと、ぐしゃりと握り潰されるかのようにして小さくなる。そうしてガシャンと大きなガラス玉を叩き割る程の衝撃音と共にそれは消えて無くなった。
急にシンと静まり返る空間で、忘れていた呼吸の仕方を思い出したかのように私は肩で息をした。
は、は、と短い息を繰り返しながらガタガタ震えるだけの私を、ハイデスさんは強く抱き締めた。
「ハイデス、急ぎなさい。屋敷へ戻り結界を張り直します。奴が再びここへ来る前に。」