第4章 3 夢か現か幻か
「……あれ、抜け出せたんだ。やっぱり壊さないように捕まえるのって難しいなぁ。」
肩を押さえながら立ち上がるハイデスの、その姿に一瞬驚いた様子を見せる。
しかし、焦る素振りも無く鋭い音を立てて降り注ぐ攻撃を避けること無く見えない壁で防いでいく。
「困ったな、僕は早くアンリと二人で帰りたいだけなのに。」
「…ッ、そんなことを、許すと思うのかっ!?」
「許す?何言ってるの?君の意見なんて関係ないんだよ。」
キィン、
目の前が白く光り輝くと、ハイデスの頭上に光で出来た檻が現れ、その存在を把握するよりも早く、美しくもどこか悍ましささえ感じさせるそれはゴウンと大きな音を立てて落下した。
「初めからこうしておけば良かったね。」
ハイデスが何かを唱えるも、何も発動せず、それどころか外に声すらも届かなかい。
檻を掴むと、ジュ、と肉の焼ける嫌な音を立てて脱出どころか一切の抵抗をも許さなかった。
そんなハイデスに背を向けると、ゆっくりとした足取りで此方へ向かってくる。そうして私の結界をチョンと触れて消し去ると、目の前で膝を着いて見せた。
もう既に、その瞳は私だけを視界に捉え、そうして、どこか切なげに笑って見せる。
こんな状況だというのに、恭しくも私の手を取ってみせたセラフィムが愛おしそうに口付けて、その長い金の睫を伏せた。
あまりに美しいこの男は、つい先程の無慈悲なまでの冷酷さを見せていた、あの人物と同じとは到底思えない表情を浮かべるのだ。
それは、悲しさと狂おしさと、そして私には決して受け止めきれぬ愛を織り交ぜて美しく誂えたかのようなものであった。
「……ねぇ、アンリ、お願いだ…」
セラフィムが何か言葉を続けようとしたその時、耳を劈く様な、けたたましい音を立ててこの空間が壊された。
同時にハイデスを捕えていた檻がバラバラに砕け光の屑となって消えていく。