第4章 3 夢か現か幻か
「こんな魔力入れたところで、根本の解決にはならないのにね……バカなやつだ。ほら、これで綺麗になったよ。あと、仕上げをさせてね。」
上手く動いてくれない身体に、無抵抗で施される行為に訳が分からなくなりそうだった。
そんな私を他所に、彼の手がずるりと私の腹の中へ入った。触れられている感覚など無いというのにだ。整った長い指が、服も通り越すようにして、私の腹の中に入ってくる。確かに彼の手が、お臍の辺りから差し込まれているのだ。
「っ、い、ぁ…っなに、これ…」
「フフフ……つらい?苦しい?でも、大丈夫だよ。ちょっと我慢してね……」
先程と違って、不快感も痛みも無いが、お腹の中を重たい何かが走る。そのまま彼は私のお腹の中を探るように、そして指先で何かを描くように動かしていく。
段々と息が苦しくなってきたところで、彼の手が私から離れた。
どういった魔法なのか分からないが、傷などひとつもないどころか服すら元のままで何も変わらなかった。
「ほら、これでもうアンリの身体は僕以外の魔力は受け入れなくなった。これで安心だね。」
「、っなに、…どういうこと…?」
「奴らの魔力を受け入れ無くなったってことだよ。あんな穢らわしい魔力を君の中に入れられるだなんて、ゾッとするからね……。」
詳しくは何も教えてくれぬまま、また私は彼の口付けを受けた。
その口付けは先程のそれとは全く違って、優しくて、心地好くて、ぐずぐずに溶けてしまいそうな程に甘い口付けだった。
「ぁ、ふっあ……」
とろんと、虚ろな瞳で彼を見るとあの優しい笑顔をくれた。
まるで、先程の私の言葉等聞かなかったと言うように。
そうしてまだ上手く震えの治まらない私の手を取って抱き締めると、首筋に顔を埋められてその表情は分からなくなった。
「……ねぇ、アンリ、愛してる、君を愛してるんだよ。本当に、僕は君さえいてくれれば、他に何もいらないんだ。その為に、僕はずっと…」
彼の声が、震えていた。
強く強く抱き締めて、それはまるで彼が、私に縋り付いているかのようだった。
抵抗しなくては、突き放さなくてはいけない。
それなのに、私の身体は上手く動いてくれなくて、嬉しくて堪らないと叫ぶ記憶の底のあの日の私が彼を拒絶する事を許さない。