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私を愛したモノなど

第4章 3 夢か現か幻か


目が覚めると、もうハイデスさんはいなかった。

起きた私に気が付いてユフィーが腕の中に飛び込んでくる。
堪らずに、少し大きくなってきたその小竜を抱きしめた。

ゆっくり、ゆっくりと深呼吸をした。でも、すぐにひゅっ、てなって、短い呼吸しか出来そうになかった。
寝汗をかいているわけでもない。でも、この肌に触れ、僅かに擦れる刺激すら、今の私にはこの熱を意識するひとつになり得た。吐いた息が熱い。

もうグズグズの状態で、鏡に映る自分の髪が茶から透き通った白へと変わっていた事にも気が付けず、まだ夜が完全に明ける前だというのに部屋を出た。
フラフラで、まるで立っているのもやっとだという足取りで、半ば無意識で動くこの身体を引き摺ってあの場所へ向かった。

ここがまだ夢の中であったとしても可笑しくないくらいだ。ふらついて壁に手を付き、よろけそうになるのを耐えながら歩く。

朝焼けの色が空を照らし始めていた。

もう、何度目かになるガラスの扉を潜り、細い小道を抜け、その先に見えた人影に、縋るように私はしがみついた。
それを何も言わずに、しっかりと抱き止めてくれる彼は、夢の中と寸分変わらぬ美しい姿をしていた。

「、せら、ふぃむ……」

「どうしたの、アンリ……」

相変わらず、綺麗な笑みを向けられるが、その普段清んでいる瞳に熱を宿しているのは、明らかに今この状況の私の事を全て分かっているからなのだろう。

つらい、くるしい、助けて欲しい、助けて欲しいの。
今すぐに、この熱を解放して。
全部、夢じゃない本当の貴方で、触れて、口付けて、全部全部、私を貴方で染め上げて。

喉まで出掛かる、彼への助けを乞う言葉達。

言わなくとも、そんなものは全て彼へは筒抜けなのだという事は分かり切っている。それはお互いに感じている事だった。
それでも彼はその事を私に問うことはしない。あくまでも、私が彼に求めるまではきっと彼が私に触れてくることはないのだ。
だから、私は今必死に唇を噛むの。

肩に触れる、彼の手の感覚が嫌にはっきりと伝わってくる。それが私の燻る熱を刺激しそうだった。
熱の籠った瞳をもう隠す事も出来ない私は、彼を見る。
優しくて、相変わらず暖かい感情を向けられて、その心地よさに涙が出そうになる。
否、実際今にも泣きだしそうな私はそれでも彼に縋りついたまま、言うのだ。
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