第4章 3 夢か現か幻か
「……様、お嬢様!…アンリ様!!」
肩を揺すられ、私を呼ぶ声で目が覚めた。
「ぁあ、良かった…!部屋に戻った際に、お嬢様の姿が見られなかった時は肝が冷えました。妙に嫌な予感がしたのですが、無事で居てくださって良かった……。何故このような場所へ?」
ジェイドさんだ。
私は庭の端のガゼボのベンチで横になっていたらしい。
すぐそばに、あの温室がある。
「体調が宜しくないというのに、こんなところで眠っては御体に触ります。さぁ、早く部屋へ戻りましょう?」
肩を支えられて、身体を起こすが、フラりとそのまま体勢を上手く保てずに凭れ掛かってしまう。
「、お嬢様……本当に大丈夫ですか?熱は、無いようですが…。」
ジェイドさんが白い手袋を外し、私の額に当てられた手が心地よく感じる。
腕の中の安心感を感じるが、何か違うと胸の奥がざわつく。
あれ、なんで私ここにいるんだろう。
彼と、セラフィムと会っていて、それで、沢山触れられて……。
あぁ、なんであんなにしてしまったんだろう。私から求めていた。
何回果てたかも分からない。
何時間そうしていた?
そういえば今が何時間なのかすら分からない。
「、あの…ジェイドさん、今は何時でしょう……?」
恐る恐る聞くと、すぐにポケットの懐中時計を取り出して確認してくれた。
「今、9時に御座います。朝食の片付けに部屋へ行った時にはもう既にお嬢様の姿はなく、このジェイド、さすがに焦りましたよ。お召し物も変えずに……本当に、どうしてしまったんですか?」
朝9時?私が起きたのって、多分8時半とかだ。
そこからここに来て、彼に会って…?
時間の感覚が可笑しいなんてものじゃない。
もしかして、本当に流れる時間が違うの?
確かに、昨日とかも何だか可笑しい気がしていた。それが今日は明らかに可笑しいのだ。
体感的に、どのくらいだろう?
少なくとも、数時間は彼と過ごしていた感覚で、ものの30分弱で起きたことでは無い。
頭の中がぐるぐるして、彼の事を考えると起きる頭痛も、最初よりは良くなってきたが、それでもまだ私の頭を締め付けた。
「、お嬢様…失礼ですが、お部屋まで運ばせて頂きます。」
頭を抱えた私を見てだろう、ジェイドさんに横抱きを抱き抱えられて私はその場を離れた。
段々と視界から遠ざかる温室に、無性に寂しさを感じながら。