第4章 3 夢か現か幻か
決して激しい動きでもないのに、彼を感じる程に私の中の熱がどんどん大きくなって、そして彼の腕の中でその熱が弾ける。
とても満たされた気持ちで、また深い口付けを受けながらも私はぐじぐじと疼く身体の芯に、己が可笑しくなってしまったのではと感じる。
彼に触れられる程、彼の腕の中で絶頂へと登らされる程、幸せで堪らないのに、それ以上に欲が生まれるのだ。
果てる度に飢えが増す。喉が渇く。
欲しくて欲しくて堪らない。
もっともっとと飢える身体を見透かしたように新たな刺激を与えられる。
戻れなくなりそうで、怖くなった。
底無しの穴にどこまでも落ちていってしまいそうなその恐ろしさに、私はセラフィムにしがみつくようにして、必死にその快感に耐える。
優しい、優しい刺激の筈なのに、簡単に達してしまう。
もう何度目か分からない絶頂の後、私はこれ以上の快感が怖くなった。相変わらず私の身体は欲しくて欲しくてどうにかなりそうな程疼いてしまって仕方がないのだが、それがまた恐ろしかった。自分の身体じゃないみたいな感覚。
もう嫌だと、そう思ってぐちゃぐちゃな顔で彼を見た。
彼は相変わらずキラキラしていて、綺麗に微笑んでは少し困ったように眉をおとした。
「…まだ、これ以上は難しいか。でも、もう少し……もう少しだね、アンリ。」
何がもう少しなのか、これ以上が何なのか、私はきっと知っているのだ。
過去の私が、それを感覚で教えてくれる。
だからこそ、私は今、彼の言うこれ以上先に進むのが怖くて怖くて仕方がないのだろう。
まだ、今の私には、底の見えない彼の中へと堕ちていく勇気は、無い。
かつてそこで生きていた私がいて、どこまでも落とされたそこで幸せそうに笑っている、あの時の私が少し寂しそうにした気がした。