第4章 3 夢か現か幻か
「どうして逃げるの?もっと求めてよ……僕を感じて、もっともっと、前みたいに…僕を欲しがってくれないと。」
抱きしめる腕が、ゆっくりと私の体をなぞっていく。
本当に、ゆっくりと、確かめるように彼の手が滑っていくのだ。
それが擽ったくて、もどかしくて、堪らずに肩を震わせて彼に縋りついた。
ただ撫でられているだけなのに、私の体は敏感にその動きを感じ取り、擽ったさが段々と気持ちよさに変わっていってしまう。
「、セラ、フィム…っ」
無意識に、熱の籠った視線で彼を見上げてしまう。
でも、そうすると彼は嬉しそうに笑って、何も言わずに私に口付けてくれるのだ。
もう既に私の体は切なくうずいて、胸元を濡らす。
「ねぇ、アンリ……君に触れたい。」
熱に浮かされた瞳が、私に訴えかける。
それと同時に、流れ込んでくるようなこの感情の波に耐え切れない。
このままセラフィムに飲み込まれてしまいそうだった。
受け止めきれないそれに、眩暈さえ覚える。
ゆっくりと、ワンピースの紐を解いていく。優しく、丁寧に。
もどかしい程のその時間は、きっと私が逃げるために作られた、彼なりの配慮なのか。
逃げないで欲しいと、そう言いながら完全に捕まえてはくれない。
あくまで私の意思でここにいることを、意識させるかのように。
底の見えない欲望を抱きながら、彼はどこまでも優しくて暖かかった。
本当ならば今すぐにでも、この眩しい程の輝きを放つ彼の、恐怖さえ覚える欲に骨の髄まで喰われてしまいそうだというのに。
そのあまりにも美しい目の前の野獣は空腹の腹を抱えながら、私という獲物をずっと愛おしそうに愛でるのだ。
隠そうとすらしない牙を私に見せ付けながら、優しく愛おしそうに、私の恐怖を舐め取るように。
「大丈夫、大丈夫だよ、アンリ……」
夢と同じ……否、もっと甘くて、もっと優しいその声が怖かった。怖いのに、脳が喜びとしてしか受け止めようとしないのだ。
何も考えられなくなりそうだった。