第4章 3 夢か現か幻か
『アンリ、…可愛いね、僕のアンリ…』
セラフィムの手が私に触れる。
唇に、胸に、そして熱い熱を持つ割れ目に。
気持ちよくて、もっと触って欲しいと思うと彼は何も言わず私の求めるそれを与えてくれる。
でも、何かが違った。
私に触れるのは紛れもない彼なのだが、何か違うと思うのはこれはいつもの夢の延長線だからだろうか。
本当の彼はもっと甘く優しい穏やかな空気に包まれて、もっと恐ろしいくらいの熱をその瞳に宿し、私を捉えて離さないのだ。
それでも、夢なのか、私の中の記憶の彼なのかはわからないが、愛おしそうに私に口付けて愛を囁くその人は、確実に私を快楽に上らせていく。
もっと、もっと欲しい。
彼に触れて欲しくて、夢の中の私ははしたなく彼を求めていた。
それがいけないことだと言うことすら忘れて、ひたすらに彼を求めていた。
どこまでが夢で、どこまでが記憶なのか、私には分からなかった。
フワフワする。
ユフィーが朝からはしゃいでいるのも、何だか遠い場所のように感じる。
いつもは殆ど一人でする朝の身支度も、気が付いたらメイドさんにやらせてしまっていた。
体調が悪いのかと心配されたが、そうではない。
朝食はお腹が空いてないから断ったら、スープだけでもと持ってきてくれた。
申し訳ないから、少しだけ口にする。
そうしているとジェイドさんも来て、何かと心配したり、今日の勉強は無しにしようと言われた。
そんなに心配しなくても、私、大丈夫なのに。
ボーッと、部屋を見渡す。
いつもの私の部屋だ。
窓の外、バルコニーに出て庭を眺めた。
あぁ、ここからじゃあの場所が見えない。
彼に会える、あの場所が見えないじゃないか。
胸の奧が切なく痛んだ。
今日も、行けば彼は私を迎えてくれるだろうか。
そう思うと、夢の中で沢山彼に触れられた身体が疼いた。
発作ではない、でも、何だろう、彼に触れて欲しくて堪らない。
今日は、急に居なくなったりはしないだろうか。
彼に抱き締められていない、この身体が寂しくて、気が付けばフラフラとあの場所に向かっていた。
私はこの時、自分の意識が可笑しくなっていて、まるで何かに操られているかのような状態であったことに気が付けないでいた。
ただ、彼に会いたい。
他の事は全て忘れて、その本当か嘘か分からぬ意識にのみ突き動かされていた。