第4章 3 夢か現か幻か
「……アンリは、もう僕と会いたくない?」
「、ちがうの…!」
咄嗟に、彼にすがり付いていた。
「嫌とか、そういうのじゃないの。ただ、自分の気持ちが上手く整理できてなくて、まだ誰にも相談も出来てないし…その、」
「…うん、分かってる。分かってるよ、アンリ。」
彼に会えなくなるのは嫌、絶対に嫌。
驚く程にその気持ちに意識が支配された。
そんなこと言わないで、お願い。決められない私が悪いの、今すぐ貴方を選べない、私が悪いの。
必死に訴えると、頬に手を添えられて、あの瞳が私を捕える。
「ねぇ、僕を選んで、アンリ……早く、早く僕の元へ帰ってきてよ…。」
真っ直ぐに私を見ながら、唇が触れ、滑ったそれが入り込み、私の咥内を犯す。
「ん、ッ、ふ…ンンッ!」
私の中に何かが流れ込んでくる。
思えば、彼とキスをしている時に気持ちがいいのはこれのせいだったのか。
幸せで、嬉しくて、気持ち良くて堪らないのに、今は胸が苦しくて苦しくて、無意識に私の頬を涙が落ちた。
噎せ返りそうな程の想いと、優しく柔らかな、けれど全身が震える程の快感。ふわふわして、目眩ではないのだが、身体の感覚さえ分からなくなった。
口付けが終わっても、暫くぼんやりとして、浅く息をしながら彼の瞳を見ることしか出来なかった。
なに、これ。
私の身体がどこかへ行ってしまったみたい。
「、ごめん、無理させちゃったね。今日はこのくらいにしよう。これ以上いたら、本気で君を拐ってしまうから…。また、僕に会いに来て……アンリ。」
額に手を添えられ、フワリとそれが離れる。
すると、先程までずっと私を離さないとばかりに抱き締めていた筈の、目の前の彼が居なくなっていた。
私はペタン、と地面に座り込んだ。
先程の目眩のような、ふわふわとした感覚は大分治まっている。
日の光がステンドグラスを抜けて、色鮮やかな光をこの空間に射し込んで、草も花もキラキラと輝いていた。
その美しい空間で、一人座り込んでいる私。
途端に、置いていかれたような、棄てられたような気持ちになった。
なんで、行っちゃうの?
寂しくて、切なくて、私は暫くの間ぎゅっと自分の身体を抱き締めていた。
私の中に残っていた、何か大切なものが薄れていくのにも気が付かないまま、私の思考はあの美しい空色に犯されていった。