第4章 3 夢か現か幻か
そう言って彼は優しく微笑むと、私の頬に触れた。
流れ込んでくるような、その暖かな優しい感情が、私の事を包み込んでいく。
少し照れくさくて、でも本当に幸せな感情が。
愛している。
他になんと表そうか。
愛おしくて、大切で、何よりも真っすぐに相手を思うその気持ちが、伝わってくるこの感情が、私に対するセラフィムの想いだというのか。
胸が苦しいどころではない。おかしくなりそうな程にどうしようもなく求めてしまう、そのあまりにも激し過ぎる感情と、もっと暖かくて柔らかい大きな気持ちが交差して、複雑な、もどかしい一つの想いとなったそれ。
今の私には、受け取るにはあまりにも大きすぎて、不安そうに彼を見つめることしか出来なくて。
「あぁ、ごめんね、大丈夫……これは僕の一方的な君への想いなんだから。フフ、でも、前と全く同じ反応するんだね、アンリは。」
「、え…?」
「あれ、言ってなかったか。ずっと、僕の片思いだったんだよ。」
額に口付けられて、またむず痒いような切なく甘い気持ちに包まれる。
知らない彼との記憶に思いを馳せると、やはり頭がまた少し傷んだが、すぐに彼がそれを直してくれる。
不安そうに見上げたら、すぐに口付けが降ってくる。
「ねぇ、アンリ……まだ、僕と一緒には来れないかな。」
「…、ごめん、なさい。」
感情が、ぐちゃぐちゃだった。
急にこんな、受け止めきれない程の想いを直接受け取ってしまった私は、何が正しいのか分からなかった。
私の意識を支配するかのように思えた、この空色の瞳はまっすぐに嬉しそうに私を、私だけを見てくる。
信じて、良いのだろうか。
分からなかった。
彼を思う気持ちも本当なのだが、彼といると、ここにいる、ハイデスさん達の事がどこか遠い出来事のように感じてしまうのだ。
今、私がいるのは彼、セラフィムの隣なのだと思わずにはいられない何か。それが怖くて、恐ろしいのにこの瞳を見るとすぐにそんなこともどこかへ行ってしまう。