第4章 3 夢か現か幻か
「そう、もっと僕の名前を呼んで。可愛い僕のアンリ……。」
私だけを見つめるこの瞳は、初めから気が付かないうちに私の意識を奪っていったのか。
いや、それならばこの気持ちは嘘なのか。
目の前の彼によって、作られてしまった気持ちなのか?
酷く、胸が痛んだ。
そんなことないと、知らない記憶の知らない私が必死に訴えているかのようだった。
この優しく私の頭を撫でる、大きな綺麗な掌も、愛しむように触れる唇も、こんなにも心地よくて、懐かしくて。
それら全てを私の記憶が知っているのだと訴えるのだ。
幸せだった、その記憶と何一つ変わらない、大切なものだと、訴えてくるのだから。
「セラフィム…私、わからないの……、貴方といると、苦しくて、何もわからないのに、ずっとずっとこうしたかったみたいに、胸がくるしくなってくるの。」
「……まだ、アンリに掛けられた悪い魔法が解けないんだ。だからね、少し混乱しちゃってるだけなんだよ。大丈夫、全部に委ねて…アンリは何も考えなくていいんだからね。」
「本当に…?信じていいの……?」
「勿論だよ。僕だけは君に絶対に嘘は言わないよ。信じて、アンリ……。」
彼の言っていることが嘘だとは思わなかった。
この、私に向けられる狂おしい程の想いも。
「ごめんね、僕があの時ちゃんと君を守ってあげられなかったから……こんな思いさせちゃって、ごめん。僕のことを忘れたままの方が、違った幸せになれるかもしれない未来が、今の君にはあるってことも、分かっているんだ。でもね、どうしても、僕は君の事が好きで、本当に愛しているんだ…。」
苦しいくらいの、この気持ちが、私の中に流れ込んでくる。
胸が痛くて、苦しくて、張り裂けそうなこの衝動と、思うように動けない葛藤が。
私の気持ちを、待ってくれている。その彼の気持ちが、不思議と分かってしまった。
何故だかわからない、でも、繋がっていると、そう感じる何かがあった。
「…、セラフィム、これ、」
「フフ、久しぶりだね、この感じ……お互いに、感じてる気持ち全部分かっちゃうね。」