第4章 3 夢か現か幻か
背後から抱き締められ、耳元で囁かれる。
本当に、昨夜想像してしまった彼の声と、今私を責めるその声とが全く同じで、どうしようもない恥ずかしさに襲われる。
それと同時に、こんなに密着されては昨夜の事を思い出してしまう。
「やぁ、やあっ…!」
堪らず涙目になりながら、放して欲しくて彼の腕を掴むも私の力ではビクともしない。もう私は恥ずかしさに首を振ることしか出来ない。
「嗚呼…やだやだ言いながら、どんどん思い出しちゃうね?恥ずかしいことぜーんぶ僕に知られちゃうの、本当に可愛い。恥ずかしがってるのも、嫌がってるのも、本当に、全部可愛い。」
耳元と、首筋に何度も口付けられる。
正面を向かされて、指先にキスをされる。
それだけなのに、酷く恥ずかしくて私は目を泳がせる。
「ほら、そんな顔しちゃダメでしょ?我慢できなくなっちゃうじゃん、まだ、触れるのは我慢するって決めてるのに…」
そう言いながら、気が付けば、重なる唇と、絡み付く舌先。
しっかりと支えるように回された腕。
絡み合う舌が、抱き締められる腕が、全部が心地好くて、まるで溶かされていくようだった。
私はこれを知っている。
この人は、私の事を知っている。
夢の中の小さなピースと、今こうして触れ合う彼との時間が少しずつ重なっていく。
でも、何故だろうか。胸が少し痛むのは、ハイデスさんへの芽生え始めた想いからだろうか。
「、っんん……ふ、ッ!」
激しくなる口付けに、何も考えられなくなっていく。
「アンリ……僕の事を考えて。僕だけの事を考えなきゃダメだよ。」
目が合うと、何も考えられなくなる。
セラフィムしか見えない。
「ぁ……、せら、ふぃむ…」
離された唇から、もうどちらとも言えない唾液がツ、と透明な糸を作って、やがて消えた。
この瞳に、吸い込まれるような色に先程までの意識は全て攫われてしまったかのようだった。
不思議な魔法に掛けられてしまったこのような、この感覚。
そういえば昨日も同じ感覚に襲われた事を思い出して、一つの可能性に気が付いたが、もう遅かった。