第4章 3 夢か現か幻か
そうしているうちに、ジェイドさんは他の執事さんに呼ばれて部屋を出てしまった。
やっぱり、言うのはやめておこうかな。
よく分からないけれど、突然彼の事を口に出すのが怖くなった。
話してしまったら、もう会えなくなってしまうのでは…?
伝えてはいけないのだと、そう思わなければいけない、決して話してはいけないのだと……私の中にある何かがそうさせた。
この時には、まだ些細な違和感に、それが私の中にある筈の無い意識だとは気が付けていなかった。
それからというもの、一人先程の勉強の復習をしても、新しい本に目を通しても、何も頭に入ってこないのだ。
ソワソワして、とにかく落ち着かない。
本当は、昨夜あんなことをしてしまった後だからもし彼に会えても上手く話せない気がしていたのだけれど、会いに行くしかない。だって、他の事が何一つ手につかないのだ。集中力はある方だと思っていたが、こればかりはやはり仕方がない。
そっと屋敷を出て、誰も居ないのを確認するとあの場所へ向かう。
何となく、誰にも見付からないように来てしまうのは何故だろうか。
あぁ、きっと、私は分かっているんだ。
これがいけないことなのだと。
でも、これは自分の過去を知るためだ。
私自身のこれからを、私自身が考えるためだ。
ならば何故、話さない?
何故、隠れているの?
分からない。けれど、きっとバレたら彼に会えなくなってしまう。彼は、きっと会ってはいけない人なのだと、心のどこかで私は既に理解していたのだ。
「フフフ、もう来てくれたの?嬉しいなぁ。アンリ……ほら、おいで?今日は何を知りたい?」
会ってはいけない人なのかもしれない。
でも、二度と会えなくなってしまう人なのかもしれない。
その思いが、私をこの場所へ連れて来てしまう。
「……貴方の事が知りたいの。…今日、貴方の事をジェイドさんに伝えようと思ったの。なのに、言えなかった……伝えたら、もう会えなくなってしまう気がしたの。」
「……アンリは、秘密にしてまで僕に会いたいと思ってくれたの?」
頬に手を添えられて、何だか恥ずかしくて視線を逸らした。すると、額に優しい口付けが落ちてくる。