第4章 3 夢か現か幻か
「ぁあ、いい子だね、アンリ……ちゃんと僕の事、覚えててくれてるね。」
「なに、…?」
「フフフ、君の中に僕の事を好きでいてくれた時の気持ちがまだ残ってるってことだよ。キスしただけでも、すごく気持ち良かったでしょ?」
彼を、好きだった頃の私?
彼を見ると、とても優しそうに笑っている。
例えそうだとしても、こんなに違うものなの?
急にこんなことをされても嫌な気持ちにならないのも、そう言うことなのかな。
私から離れた手に寂しさを覚えるくらいには、私はこの人に触れられる事が嬉しかったのだ。
自分の感情が、分からなかった。
「ねぇ、アンリ……本当は、今すぐにでも君を拐って連れて帰ってしまいたい思いで一杯なんだけど、無理強いはしたくないんだ。だから、アンリが僕の事を思い出してくれるか、僕と一緒に来てくれるって言うまで僕はここで君を待つよ。」
「、いいの?」
「勿論。本当は僕は違う場所にいて、コピーみたいな身体をここに飛ばしているだけだから安心して。好きな時間に来てくれればいつでも迎えるよ。」
私の服を整えると、不思議と濡れた胸元も元に戻っていた。
「……アンリ、僕はね、君が何よりも大切で…誰よりも君を愛しているんだ。それだけはずっと覚えていてね。」
ちゅ、と触れるだけの口付けをされると、それだけで何だか胸が切なくなった。
「あぁ、そんな顔しないで?本当に今すぐ君を連れて帰りたくてどうしようもないんだ……。」
おどけたように笑って見せる彼は、この空間に負けないくらいキラキラしていた。
もっと色んなことを聞きたかったし、とにかく知りたいことが沢山あったが、少しの間ゆっくり考えたかったから、一度屋敷に戻ることにした。
私の都合に彼を付き合わせてしまう事に、少しの罪悪感があったが、すぐには結論は出ないだろう。
寂しそうに此方を見ている彼に、後ろ髪を引かれながら私はこの温室を出た。
どことなく、意識がふわふわしている気がした。
彼に触れられたところをぎゅっと抱き締めると、私はまた見付からないように部屋へ向かった。