第4章 3 夢か現か幻か
「そっか、僕の名前はセラフィムだよ、アンリ。」
「セラ、フィム……」
「そうだよ、何か思い出せそう?」
上手く、声に出せない。
私はその名前を知ってる気がする。
なのに、考えようとすればする程に頭が痛くなってきて、思い出すどころではなくなった。
急にガンガンと鐘が鳴り出す頭を、そっと彼の手が触れると不思議とその痛みは無くなった。
今の、何だったんだ?
「なるほどね。思ったよりも随分と強い術を掛けられてる。無理矢理解除する事も出来るけれど、きっと君の身体への負担が大きすぎるな……仕方ないから、少しずつ思い出してもらうしか無いか。」
「術って…?」
「君が僕を忘れちゃう、悪い呪いの事だよ。酷いよね……君に祝福を与えたのは、僕だって言うのに。」
それって……私の記憶を、誰かが消したということ?
酷い。私は何でそんなことされたんだろう……今まで私が過ごしてきたであろう日々が、無くなってしまったということだ。
何か記憶から消されなきゃいけない事があったとか?
彼…セラフィムは、その理由含めて私の過去の事をどれくらい知っているのだろうか。
それに、祝福って、何の事だろう。知らない言葉が沢山出てくる。
「フフ、君はね、この世界にちょっと身体が合わないから僕が少しづつ馴染んでいけるように魔法を掛けてるんだよ。でも、実はまだ完全には掛けられていないんだ。……たまに、熱が出ることはない?」
「……あ、」
「思い当たる節があるみたいだね。術が完成形になれば、それもなくなるんだけど、最後の調整に時間が掛かるんだ。その途中で、君と別れなきゃいけなくなっちゃったから……だから、ごめんね。一緒に来てくれれば、治してあげられるんだけど。」
きっと、今まで目を背けていた疑問……私が何なのか、どこから来たのか、そう言うことも全てセラフィムに着いていけば知ることが出来るのかもしれない。そして、彼自身の事も。
ならば、私はここを離れて、彼について行くべきなのだろうか。