第4章 3 夢か現か幻か
「ぁあ、可愛い……僕のアンリ。ほら、もっとしてあげるね?」
あぁ、全部、彼には見透かされてしまうのか。
欲しい気持ちをぐっと飲み込もうとした瞬間に、深い口付けをされた。
勿論、振り払うなんてことも出来なくて。
でもこんなことをするためにここに来たのでは無いのに。
まだ何も知らないこの人にされた口付けがこんなにも気持ちいい事に気持ちが追い付いていかないのだ。
ハイデスさんにされた口付けと、全然違う。
気持ち良くて、何も考えられないくらいで、とにかくもっと欲しいと求めてしまいそうだった。
呼吸も、胸も、苦しくて涙が出そうだ。
そう思ったら不意に彼が離れた。
「ごめんね、嫌じゃなかった?アンリがあまりにも可愛すぎて、我慢できなかった……。」
嫌じゃないかなんて、分かっている癖に、それは言わせようとするのか。
意地悪な人だと思うと、悪戯に笑った彼の顔がそこにあった。
「ごめんね、ちゃんと君の言葉で聞きたくなっちゃったけど……意地悪って思われたくないからやめるね。」
そう言って、楽しそうに笑っていた。
「アンリ、君が夢って言ってたのは、夢じゃないんだよ。全部記憶。君の記憶なんだよ。だから、君の中にはちゃんと僕との記憶が残っている……今、君はそれが上手く引き出せないだけなんだよ。」
「そう、なの?途切れ途切れで、よく分からなかったけど…。あの、貴方は私が天女?っていうのとか、どこから来たのかとかは、知ってるの?」
「勿論。知ってるよ。君はね、元々普通の子だったんだよ……普通だけど、頑張りやさんな、可愛い子。フフフ……最初は僕がね、君に勝手に一目惚れしちゃったんだ。」
一目惚れ…?
そんな出会いがあったのだろうか。
「そうだよ。でもこれは前の君も知らなかったかなぁ……ねぇ、僕の名前は思い出せる?」
彼との出会いも分からないなら、やはり名前も分からなかったので、分からないと首を横に振るしか出来ない。
彼は少し残念そうな表情をした。