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私を愛したモノなど

第4章 3 夢か現か幻か


きっと、私の事を本当に知っているのだろう。
私が記憶を無くす前に彼と過ごしていたというのも本当かもしれない。

でも、帰ると言っても、もう私の居場所はここなのだ。
私は、何も分からない私を新しい家族として受け入れてくれた人達と簡単に離れることなんて出来なかった。

「あぁ、かわいそうに。君は忘れさせられてるだけなんだよ。悪い悪魔に呪いをかけられているんだ。」

「悪い、悪魔って……?」

「そうだよ、でももう大丈夫。全部僕に任せて。そうすればもう二度と怖い思いなんてさせないよ……君に辛い思いなんて、僕なら絶対にさせないから。だから、お願いアンリ、戻っておいで?」

悪い悪魔って誰の事を言っているのか、彼の言葉は果たして信じても良いのだろうか。

「大丈夫だよ、アンリ……僕を信じて?」

私をそっと抱き締めて、囁かれる言葉にハッとした。

さっきから何かおかしいと思っていた。
この人、私の考えてることに対して答えてる…?
もしかして、私が考えてることが、彼は分かると言うの?

まさか、思考が読まれているだなんてことがありえるのかと、彼を見た。するとニッコリと笑って、言うのだ。

「……僕は君のことは何でも知ってるよ。でも、安心して?君の全てを僕は愛しているから…。」

こわ、い。

咄嗟に彼の胸を押した。
意外な事に彼の身体は私から簡単に離れた。

真っ直ぐに私だけを見つめるこの瞳が怖かった。
心のどこまでも見透かされているようで、私が知らない私までを知っているであろう、この人が怖かった。

「まって、アンリ…!違うんだ!」

すぐそばにいたユフィーを抱いて彼に背を向けた。
私を呼ぶ声がするが、追いかけては来ない。
息を切らしながら温室を出ると、彼の声も聞こえなくなったが、それでも私は振り返らなかった。
そのまま部屋まで走って戻り、部屋に鍵をかけてベッドに潜り込んだ。

夢だ。これはいつもの夢だったんだ。

あんなところに、夢で見てた人が現れるなんてあり得ない。
これは私が作った都合のいい夢なんだ。
そう思い込ませないと、何故だか恐ろしくて仕方がなかった。
早く朝になって欲しい。まだぼんやりと白く明るい外の光に呑まれてしまうような、そんな感覚がしてその光から隠れるように、私は布団を頭までかぶって、小さな暗闇の中に身を潜めた。
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