第4章 3 夢か現か幻か
「大丈夫、大丈夫だよ。僕に任せて。」
額に口付けをされると、暖かい何かが広がった感覚がした。
「ほら、これでもう低俗な奴らが君に触れることは出来なくなったよ。ごめんね、本当は違う場所でもっと早くに迎えに来る筈だったんだ。」
一体、何の話をしているの。
この人は、私の何を知っているのだろうか。
「ぁあ、……アイツ等にも触れられてしまったの?まだ繋がれてはいないね?良かった、僕のアンリが穢されてしまうなんて、考えたくもない。でも、まだ奴らに注がれた魔力が体の中に残っているね……」
お腹に、彼の手が触れた。
その瞬間、身体がカァッと熱くなり、ジリジリとした妙な痛みに襲われる。
「い、いやっ……!」
なん、で、しってるの。
アイツ等って、ハイデスさんと、ルシスさんのこと?
この人は、どこまで知っているの?
こわい。
咄嗟に彼の胸を押した。
私から彼を突き放すような形で離れる距離に、恐る恐る彼の顔を見ると、酷く泣きそうな顔をしていた。
「大丈夫だよ、君の嫌がることは何一つしないから……」
伸ばされた手を取ることが出来なかった。
「ごめんなさい、もう……戻らなきゃ。」
「どうして?やっと、やっと会えたんだよ……?僕はずっとずっと君を探してたんだ。」
すがるような声に、泣きそうな表情。
その瞳はずっと私以外を写そうとはしない。
何故か拒絶出来なかった。
否、私はその場から動けなくなっていた。
「ほら、アンリ……どうか僕を思い出して?」
彼はそっと、本当に優しく私の手を取ると、小さく口付けをした。
そうして自然と目が合って、柔らかく微笑んだ空色の瞳がどこか嬉しそうな色を浮かべると、また、優しく私を抱き締めた。
本当に、割れ物でも扱うかのように、優しく、苦しいくらい優しく彼は私に触れた。
「……あなたは、誰、なの…?」
「……そっか。本当に思い出せないんだ。僕はそうだね、カミサマだよ。」
「カミサマ?」
「そうだよ。君が本当に居るべきなのはここじゃない。僕は君を迎えに来たんだって、言ったでしょ?だから、一緒に帰ろう?」
彼の言葉は、信じていいのだろうか。