第4章 3 夢か現か幻か
「そっか、……やっぱりね。あの時も邪魔が入ったからね。何かされただろうとは思ってたけど……まぁ、いいや。もっと近くで君を見たいな。僕はそっちへは行けないんだ。だから、もっとこっちおいで?」
怖い、のに、勝手に身体が動いてしまうようで、彼のもとへと行ってしまう。自分の身体が自分の物じゃないみたいだった。
だって、あの夢と同じ姿で、同じ声で、優しく甘く、私を呼ぶのだ。
こんなにも怖いのに、何故か、とてつもなく嬉しくて、胸が張り裂けそうな程に、辛い。
「あぁ、アンリ……無事で良かった。心配で心配で……本当にどうにかなりそうだったんだ。会いたかった。」
ハイデスさんよりもずっと柔らかくて、甘い声。
包み込むように、そっと私を抱き締める腕。
甘く、爽やかな香り。
知らないのに、私はそのどれひとつ知らない筈なのに。
その全てに、泣きたくなる程心が揺さぶられてしまう。
愛おしそうに私を真っ直ぐに見る瞳の中に映った私は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「君がいない日々は恐ろしく辛かった。いっそ消えた方がましだと思えた……探すのに少し苦労したけど、また会えて、本当に良かった。」
私の事を、知っているの?
貴方は前に私と過ごしていたの?
どんな約束をしていたの?
私を、探しにきてくれたの……?
頭の中ではぐるぐると様々な疑問が飛び交って、でも喉はカラカラに渇いてしまって、上手く言葉を繋ぐことが出来ない。
「フフ、勿論……君がどこにいたって、僕は必ず見付け出してあげるからね。ほら、可愛い僕のアンリをよく見せて……大丈夫?どこも悪いところはない?……あぁ、下等な天使に触れられてしまったの?可哀想に……ソレは僕がちゃんと後で消しておいてあげるからね。」
「、ゃ……なん、で…」
心が嬉しいと、歓喜に震えている筈なのに、そのすぐそばで誰かが警告を鳴らしている。
何故、この人はその事を知っているのか。
街での事は、ハイデスさんとルシスさん、そしてジェイドさん以外詳しくは他のメイドさん達ですら知らされていないというのに。