第4章 3 夢か現か幻か
ガバッと、勢い良く飛び起きた。
ハァハァと肩で息をしていた。
夢の中で、腕を掴まれた感覚がまだ残っている。
無意識にそこをさすりながら、混乱する意識を落ち着かせようとした。
心臓が酷く脈打ち、手の震えが止まらなかった。
知ってる、あの顔、あの声……
何で私は知ってるの?
彼は、誰なの?
私の中の、知らない記憶。
夢の中で無意識に、作り出していた人だと思う時もあった。
でも、違った。
確実に、私はあの人を知っている。
でも、何も分からなかった。
息を整えても動悸がすごくて、喉がカラカラに乾いている。
夢の事を考えると、何故か頭が痛い。
酷くうなされていたのだろう、ユフィーが心配そうに側に来ては手を舐めてくれている。
「ごめんね、ビックリさせちゃったね……。」
お水が飲みたかったけれど、ちょうど切れていたのでユフィーを連れ、外の空気を吸うのも兼ねてキッチンまで行くことにした。
外はまだ明るい。
そういえば、今何時くらいなんだろう?
ジェイドさんやメイドさんも見当たらないので、夜中なのかな。
昨夜はいつもよりずいぶん早くにベッドに入って、そのまま眠ってしまった。
しかし、もう白夜も終わりに近付いてきていて、そこまで夜の日が長いわけでもなかった。
今日は珍しくいつもより明るいのかな、なんて思った。
しかし、こんなに明るいのに人の気配が全くしないのが、少し怖い。
キッチンで水を飲み、一息つく。
さすがに落ち着いてきたが、何だかまだ胸がざわざわしている。
ふと見ると、一階のキッチンの側の裏口が珍しく少し開いていた。
誰かドアを締め忘れてしまったのかな?
それとも、誰か外に出ているのかもしれないと、近くのサンダルをひとつ借りて外を見てみる。
人の気配もしないのだから、誰もいる筈ないようだ。屋敷の中へ戻ろうとすると、ユフィーが急に飛び出してしまった。
「ちょっと、ダメだよ……もう夜なんだから、部屋に戻って寝るんだよ?」
「キュキュ…?」
「ほら、こっちにおいで?」