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私を愛したモノなど

第3章 2 暖かな黒の中で


また、流されてしまった。
乱れた呼吸を治す私の服を整えるハイデスさんをぼんやり見た。

過去の記憶を取り戻す事も諦めてしまっている中、私はこの新しい居場所にすがり付いている。
抱き締められた腕の中、口付けで微睡んでいた意識が覚醒しそうになるが、これが夢と現実の境か良く分からない。

窓の外はまだ明るいが、その光はどこか青白く人の気配も無くなっていた。

「……まったく、部屋に居ないと思えばこんなところで…。あれだけ私に怒られたのをもうお忘れですか?」

「何、資料を探しに来ていただけだ。ほら、あまりうるさいとアンリが起きてしまう。」

ジェイドさんとハイデスさんの声がする。
時折、紙の乾いた音がするから本でも読んでいるのかな。

「やれやれ……いい加減にしないと、本当に嫌われてしまいますよ。」

「そう言うな……自分でも、どうにも出来ないくらい、この子が愛しくて仕方がないんだ……分かってくれ。」

覚醒しそうになりながら、またすぐに微睡みに落ちる、ふわふわした時間。
心地好い私を抱き締める腕に少しだけ、力がこもった感覚がした。

「ならば尚更、しっかりと彼女を守れるように。この先どう生きるのかはお嬢様次第です。その可能性を奪ってはなりませんよ……今、お嬢様の世界はこの屋敷の中だけになりつつあります。もっと、外の世界を知る選択肢を、私は奪いたくはありませぬ。」

「……外の世界、か。私はこの美しさを汚されてしまう恐怖の方が大きいんだ……もしも彼女がこの世界の穢れに触れてしまった時、私は果たして護れるだろうかと。外に出した途端、何者かに手の届かないところへ拐われてしまうのではと……そう思うと恐ろしくて仕方がない。ならば、初めからこの腕の中だけで大切にしておきたいと、そう思ってしまう。」

なんの、話だろう。

「……お気持ちは御察し致しますが、それもお嬢様が決めること。ハイデス様、どうかお嬢様にその想いを押し付けることはなさいませぬよう。」

「分かっている、分かっているさ……でも、私自身どうしようもないんだ。こんな、……初めてだ。大切で、愛おしくて、仕方がない……分かってくれ、ジェイド…。」

虚ろな意識の中で聞く、ハイデスさんの声はやっぱり優しくて、甘い。
それに何だか瞼越しに感じる、外の青白い光が怖くて、この腕の中に閉じ籠って、そしてまた、眠りに落ちた。
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