第3章 2 暖かな黒の中で
程よく外の空気、風の音、鳥の声が心地よいBGMとして落ち着いていられる時間。だがいつしかそれらも聞こえなくなるくらいに集中して手元の物語にのめり込んでいた。
それからどのくらい経った頃だろうか、ふと隣に人が座ったのに気が付く。
「あれ、ハイデスさん?…えっと、お仕事の方は…?」
「し、静かに……今日はもう粗方片付けては来たのだが、ジェイドの奴、次から次へと持って来るんだ。キリが無いからもう切り上げて来たんだ。」
それはつまり逃げてきたのでは?と思いつつ、やはり久しぶりに二人で話せて嬉しくなる。
こんな分かりにくい場所に居る私を、わざわざ探しに来てくれたのかと考えると思わず頬が緩んだ。
本を閉じようとしたら大きな手に止められる。
「良いよ、そのままで……気にせず続けて。でも、少しだけ触れるのを許しておくれ。」
そう言うと、この前みたいに腰に腕を回されて首筋に唇を寄せてきた。
これでは擽ったくて集中出来ないと思いつつ、思わず小さく笑ってこの状況を楽しんでしまった。
「フフ、ハイデスさん……くすぐったいです。」
「アンリの、良い香りがする……甘い香りだ。」
ペロリと首筋を舐められ、思わず身体が反応する。
そうしているうちに耳元へ髪をかけられ、耳元に何度も触れるだけの口付けを受ける。声が漏れそうになるのを堪えていると、ぴちゃりとわざと音を立てて濡れた舌が触れた。
「っ、ゃ…ハイデス、さん…っ」
耐えきれずにトサリ、と手から本が滑り、床に落ちた。
咄嗟に本を拾おうと伸ばした腕を私より大きな手に阻まれる。そのまま簡単に掴まれると、ハイデスさんは覆い被さるようにして更に私の耳元へ舌を這わす。
頭の中に響くような水音。
つう、と背中をなぞられると堪らずぞくりと身体が震えた。
脇、首筋、胸元とゆっくりと身体のラインを確かめるように撫でられる。同時に舌先が耳の中を優しく攻め立てた。
「ひゃ、っん…ぁ、あ…ッ」
擽ったくて、でもそれ以上に気持ち良くて段々と身体が熱を持っていくのを感じた。これ以上はまた流されてしまう。
だめだめと胸を押す。
「……ダメかい、?」
手を握られ、そっと指先に口付けられた。
懇願するような、そんな瞳に見詰められて思わず意志が弱くなる。
「、だって…こんなところで……誰か来たら…。」