第3章 2 暖かな黒の中で
やはり、そう言った行為を今の関係でしてしまうのは良くないだろう。
このクロヴィス家の娘として有るべき姿ではないと、そう思っているのかもしれない。確かに、当たり前だ。夜中にいくら誘われたとはいえ自分の脚でハイデスさんの部屋に行ったのは不味かった。
流されちゃう私も悪いんだろうな、でも、あんなことしてくるハイデスさんのせいだもん、なんて思いながらも、少し浮わついていた気持ちを引き締めた。
なるべくハイデスさんの雰囲気には流されないようにしようと、そう思い小さな覚悟を決めた私なのだが、どうやらそれは無駄に終わりそうである。
「え、ハイデスさん……また、遠くに行かれるんですか?」
「あぁ、すまない……また数日程帰れなくなりそうだ。本当はこうして君と過ごしていたいのだが…。」
はぁ、と肩を落とし本当に行きたくないという感情を隠せない様子のハイデスさんだが、食事の後軽い挨拶を済ませると屋敷を出て行ってしまった。
流されないようにだとか思ってた癖に、いざ相手が側にいないと寂しいと思うだなんて。
「……私、我が儘だなぁ。」
ぽつりと、呟いていた。
「御嬢様?どうされましたか?」
「あ、いえ……何でもないんです。ちょっと、なんというか…寂しいなぁ、とか思っちゃって。」
「なるほど……では、本日は庭にでも出ましょうか。新しいハーブティーと、菓子に使えるフルーツが収穫時でしたからね。」
「本当ですか?行きたいです!」
ジェイドさんは本当に優しい。勿論、いつも優しいのだが、無理に慰めよう等としない。
私のこの気持ちは受け止め、少しだけ気を紛らわしてくれるような、そんな事を用意してくれる。本当に、ありがたい。
それから数日は、またジェイドさんと色々な事をして過ごした。お菓子のレパートリーも、ハーブティーだけじゃなくフルーツティーも作れるようになった。天気の悪い日は一人本を読んで過ごす。
この時期から学園へ行く時のための基礎的な学びも始めている。午前中はジェイド先生のもとで色々な事を教わった。
そして、3日ぶりに帰ってきたハイデスさんを出迎えたが、帰ってきても何だか忙しそうで、私は静かに場を離れた。
この前読み途中だった小説の続きを読みに図書室へ。
窓際の奥、広めのカウチと丁度良いサイドテーブルがあるこの場所がお気に入りだった。