第3章 2 暖かな黒の中で
やっと見付けた彼女はやはりルシスが完全に守りを固めていた。
有り難いと思う反面、アンリは私の隣にいるべきだという想いが縺れて上手く言葉すらかけられない始末。
そしてまたすぐに彼女を紹介してくれという輩が次から次へと現れ、私は当の彼女を気遣ってやれる余裕すら無かったのだ。
あの後、アンリの様子から、ルシスと何かあっただろうという事は分かっていた。その時、ルシスが相手ならば断れる筈はないだろうと。
聞くと、口付けだけで、確かに急な発作なら仕方がないものではあった。
眠れないというアンリを部屋へと連れ込み、飲み物に己の魔力を混ぜるような、そんな大人げない事をする必要もなかった。
でも、どうしようもなかった。
ルシスと踊るアンリが、脳裏に焼き付いて離れない。
確かに私の手で彼女をこの屋敷へと連れ帰っても、疲れているだろう彼女を誘い手を取り踊っても……誰かに取られてしまうのではという焦りが消えないのだ。
それなのに、私の部屋……こんな深夜に男の部屋へ連れられたという事にさえ、全く怯える様子の無い彼女は、あの夜会の日とは打って変わってどこか初々しい可憐さを纏っている。
そんな彼女に、愛おしさと心配とを含んだ感情と、これから私の犯す過ちへの罪悪感を胸に、ゆっくりと私の魔力に犯されていく彼女を腕に抱いた。
もう、どうしようもなかった。
彼女の口から発作でルシスに口付けられたと聞いて、また胸の奥底が焼けるような感覚を隠せなくなる。
混ぜ物を飲ませるだけでは足りない、口付けで更に私の魔力を送り込んだ。
そうして、次第にとろとろに潤んでいく瞳に、自分でも恐ろしい程の衝動に駆られていくのが分かる。
私だけが、彼女に触れていたい。
もっと、誰にも見せること無く隠しておけば良かった。
胸を濡らし、目を潤ませてベッドへ横たわるアンリにこの昂りを抑えられなくなりそうだった。
直接触れると溢れる胸の蜜に、みっともなくしゃぶり付きながら彼女の艶やかな声を聞くと堪らない幸福感に満たされる。
「ぁあっ、ん…んんッ、ハイデス、さん…」
「…あぁ、アンリ……君の手を取り踊るのが私でなくあのルシスで、そしてそれを見る人達が、君をルシスのものだと認識してしまうのではと思って、ずっと妬いていたんだ。」